第2章 過去
お父様の怒鳴り声と、「エマが寝ているから」となだめるお母様の声。
その会話を聞いて怖くなった私はその日、布団を頭までかぶり、何とかして眠りについた。
「もう、いつまで生きられるかわからない」
扱いがひどいとはいえ、寝床はあるし、抜かれることは多いけど、食事ももらえる。
まだ私は6歳だ。
この歳で外に投げ出されたら、生きていける自信はない。
もう一度深く白い息を吐き、ゆっくりと目を閉じた。
「起きなさい!!」
朝、アリアの声で目が覚める。
大体はここで1日の仕事を言いつけられ、仕事をする。
「今日は買い物に行ってもらいます」
まだ気だるい体を強引に引き上げられ、何の準備もできていないのに買い物袋を押し付けるとアリアはさっさと出て行ってしまった。
「………行こう」
目をこすり、何度か頬をたたく。
昨日打ったところが熱を持ったのか、全身がなんだか熱く感じた。
玄関から出る前に、お母様から釘を刺される。
「ちょっと。その髪、見えないようにしていくんだよ。そんな気味の悪い髪色の子がこの家の人間だと思われたら冗談じゃない。……わかったね?」
「……はい」
「なんだいその目は。本当、お前は髪も、目の色も気味が悪い。とっとと行きな」
「……はい。……」
やだやだと言いながら去っていくお母様の後ろ姿わ見ながら、私はフードを深くかぶった。
みんなと違う、薄い金の髪色、緑の瞳。それらすべてが見えなくなるように。
私が買い物に出されるのは、年一回。
エマの誕生日。
その日は家中がエマのために動く。
侍女やメイドたち含め、家の者は料理や飾りつけに忙しいので、私が算術を覚えてから買い物は私の役目だ。
フードを深々と被った子供を不審な目でじろじろと見ながらも、売るものはちゃんと売ってくれる。
優しい町だ。
買うべきものを伝え、さぁ支払いだと思った時、袋をかけていた右肩が軽くなった。
「えっ!」
生まれて初めてスリに会った。
いや、こんなに大胆ならむしろ強盗……ひったくり?
とにかく追わなければ。
「ま、まって……!」
待てと言われて待つバカはいないということを知った。
私から買い物袋を奪った男はどんどん遠ざかっていく。
見逃すものか。と無我夢中で走っていると、いつの間にやら森の中に立っていた。
昨日降った雪が積もり、真っ白な森だった。