第2章 過去
お父様が私の頬をぶつ。
「血の繋がりもないお前を置いてやっているんだ。何故こうも迷惑をかける!!」
ぶたれた衝撃で倒れこんだ私の髪の毛を乱暴につかみ、無理やり立たせる。
「ごめんなさい……!!ごめんなさい!わざとじゃないの!!」
「言い訳はいい!お前は当分、飯抜きだ!」
そういった後に耳元でささやかれる。
「気色悪い髪色しやがって」
そのまま床に放られ、全身が痛かった。
その場にうずくまりたくなったが、早くいけと言われたので耐えて走った。
階段を一番上まで登り、突き当りの小さな部屋。
そこが私の部屋だ。極力、誰にも会わないように。
窓に映る自分に嫌気がさす。
私はこの家の娘ではない。
この家の血は、代々茶色の髪の毛。
私はこの町の中ですら珍しい、薄い金色の髪。
この家の人間でないことは、物心ついたころから知っている。
なぜ私はこのような扱いなのか。
それは彼らにとって、私をここに置くのは不本意だからだ。
私は生まれてすぐ、このスぺラード伯爵家に来た。
来た。といっても、置いて行かれたのだ。この家の玄関先に。
すでに成長しつつあったエマを溺愛していたこの家には、もう子供などいらなかった。
では、なぜ引き取ったのか。
私がくるまれていた布には、私以外にもくるまれていたものがあった。
手紙だ。
「毎月仕送りを送るのでこの子をどうか頼む」と。
田舎の伯爵家。
これまでをご覧になってわかる通り、夫婦はあまり頭のいいほうではなかった。
そのため家計は年々傾くばかり。
そんな時、赤子を家に置けば金をくれるという者が現れたのだ。
もちろん仕送りの金が私に使われることはなかった。
私を家に置きさえすれば金が手に入るのだ。
私の扱いなどどうでもいい。
さすがに最初のうちは怖かったらしいが、「問題ない」とわかるとあっという間に今の関係が出来上がったというわけだ。
「ここに置いてもらえるのも…いつまでかなぁ」
お世辞にも温かいとは言えない布団にくるまって白い息を吐く。
私はこの前聞いてしまったのだ。お父様たちが話しているのを。
トイレに起きた夜中。
1階で何やら苛立った声が聞こえたので耳を澄ませた。
「なぜだ!!なぜここ数か月、仕送りが来ない!?」
「ま、まぁまぁ。ただ遅れているだけかもしれないですし……」