第4章 暮らし
慣れない床で体が痛いのか、うなりながら何度も寝返りを打っている。
はやく起こさなければと思い体を揺らす。
「ん……?」
どうしたの?と寝ぼけ眼のまま彼は問う。
しばらく何かを考えるように静止した後、クルトさんの手が私に向かって伸びてきた。
時間も考えず起こしてしまったから怒っているのかもしれない。
叩かれる……!!
「す、すみませ……!?」
私の予想は大きく外れた。
頬をたたくと思われた手のひらは私の背中へと回され、もう一方の手は私の後頭部を優しく撫でた。
「怖くて寝れないのかなぁ?よしよし~……」
自分の心臓がうるさい。
離れようとしてクルトさんの胸板を精一杯押すが、所詮非力な子供の力だ。彼は何も感じていないようでスヤスヤと寝息を立て始める。
どうしようかと悩んでいると、クルトさんの叫ぶ声が頭上から聞こえた。
「い……いたい……」
顔を上げると涙目のクルトさんと、立っているジェラードさんが目に入った。
「寝ぼけるな。困っているだろう」
「え……」
はた、とクルトさんと目が合う。
「ごごごごごごめん!!」
パッと手が離され、私は解放された。
「どうした」
ジェラードさんが私に問いかける。
私が事情を話すと、クルトさんは困ったように笑った。
聞くところによると、あのベッドはジェラードさんのもので、寝床がなくなった彼に今度はクルトさんが寝床を奪われたそうだ。
私ったら二人ともにご迷惑をかけていたなんて……。
「私が床で寝ますので……」
「あ。じゃあさ、一緒に寝ようよ!」
「え?」
「は?」
クルトさんの提案に、思わずジェラードさんと声が被る。
「だってステラちゃんを床で寝かせるのは僕らが嫌だし。ジェラードはベッド譲らないし。僕は床痛いし。……ね?一緒に寝たら解決だよ!」
キラキラさせた笑顔で見つめるクルトさんに根負けしその提案を飲むと、さらにキラキラした笑顔を向けられる。
「じゃあさっそく」と、クルトさんが私に手を伸ばすと、触れるよりも先に私の体は宙へ浮いた。
「へ?」
気づけば、ジェラードさんが私のことを抱き上げていた。
状況が理解できず、クルトさんはポカンとしている。
「お前を俺のベッドに寝かせるのは断る。ではな」
硬直したクルトさんにそう言い残し、ジェラードさんは私を抱えたままスタスタと歩き出した。