第4章 暮らし
家族より、見ず知らずの私にやさしくしてくれた二人のことを信じるなんておかしい。と思うだろうか。
一つ言えるのは、初めて触れるやさしさを信じたいと思ったということだ。
「今日から僕たちが家族だよ」
「家族……」
クルトさんの口から紡がれるその言葉は、私をあの家に縛り付ける言葉とはまるで違うものに聞こえた。
「家族……かぞく……」
「うるさいぞ。何回言えば気が済むのだ」
「も~。ジェラードも、家族だろ??」
にやにやしながらクルトさんが聞くと、はぁとため息をついた後呟く。
「……そうだ」
私を視界に入れると、そのままフッと笑った。
クルトさんは信じられないものを見た。というように口をパクパクさせていたけど、それが嬉しくて、おかしくて。
「わわ……。泣かないで??」
「え……」
気づけば私の目からはボロボロと涙がこぼれていた。
その瞬間、クルトさんにふわりと包み込まれる。
私のことで心配されるのも、食事をだれかと食べるのも、頭を撫でられるのも、こうして抱きしめられるのも初めてだった。
人間というのはとても暖かいものなのだと初めて知った。
「さてと。もう夜なんだけど…。ステラちゃんはまだ寝られるかな?病み上がりだし、早めに寝たほうがいいかもね」
そっか。私、1日の中でもだいぶ遅く起きてしまったのか。
ずっと起きるのを待っていてくれたのか……。
案内されるがまま、私はまたあのベッドに寝かされた。
「じゃあ。僕たちは1階で寝てるから、何かあったら呼んでね?」
「はい。ありがとうございます」
ひらひらと手を振りながら階段を下りていくクルトさんを見送ってから、私は布団をかぶった。
布団の中でじっとしていると、一つの疑問が浮かんだ。
はたしてこのベッドは誰の物なんだろうか。客人用にしてはなんだか使い古している感があるような…。
こんないい寝床を奪ってしまったのではないか。そう考えると罪悪感からとても寝ることなどできず、持ち主に返して私は床で寝ようと思い、1階に降りることにした。
「あの……」
階段を下りて目についたのは、2階の物ほどではないけど寝やすそうなベッドに寝ているジェラードさんと、床に布団を敷いて寝づらそうにしているクルトさん。
きっとクルトさんから寝床を奪ってしまったのだ。