第4章 暮らし
「えっと…ジェラード?何を言っているんだい?」
クルトさんが苦笑いを見せる中、ジェラードさんは涼しい顔をしている。
「…見たところ、お前はあまり恵まれていないな?」
「……」
否定ができない。というか、なんだか自分がすごく惨めに思えて恥ずかしい。
視線を落とし、手のひらに力を込めた。
「おい!何言ってるんだよ!」
「否定できないじゃないか」
私をかばおうとしてくれたのか、クルトさんが声を荒げたがジェラードさんの言葉に押し黙る。
「あの…なんで……」
家族の話はしてないし、なぜそう思うのか。
私が口を開くと疑問を理解したようにクルトさんが私に向き直る。
「あのね。怒らないでね?」
おずおずと私の顔色をうかがいながらクルトさんは話しだした。
私を雪の中から見つけ出したのはクルトさんなのだが、その時体温で溶けた雪によって私の服はひどく濡れていて、それも相まってか私はひどい熱。
寒いはずなのにひどい汗をかいていたそうだ。
この家に運んだあと服を着替えさせたらしいのだが、その時見たのだと。
満足に食べ物を与えられていないようなやせ細った体と、至る所にある痣を。
「それに加えて、食事の時の行動。それらを見てやっぱりって……。で、でもあくまで僕らの想像だし、もし勘違いだったら本当にごめん」
「まぁ。ほぼ間違いはないだろうがな。熱のある子どもを一人で買い物に出す親などロクな奴ではないだろう」
「えっ!?熱って雪の中にいたからじゃないの!?」
あ……そうか。
あの朝のあの感じ。熱があったんだ……。
「クルト。お前が拾ってきた子供だ。このまま返して死んでもかまわないなら返すといいさ」
「ぐっ……。誰も返そうなんて言ってないじゃないか……」
明るく笑いながら私を正面にとらえると、目線の高さを合わせて顔をのぞき込む。
「ね。どうかな。ステラちゃんが嫌じゃなければここで暮らすのは。……ジェラードも、少なくとも君の家の人よりは人間の心を持っているよ」
少しの冗談を交えた、優しい誘拐文句だった。
「私……、ここに残ります」
「うん……。よろしくね」
頭に手が乗せられる。……あったかい。
クルトさんの奥に見えるジェラードさんの表情は、どこか安心したように見えた。