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暁の契りと桃色の在り処 ー紅ー

第17章 虹色の誓い


『あさひに会いお前は腑抜けたと、不要な戦をせずに世を作るなど戯れ言を言うお前に興味がなくなったのは確かだ。俺は、今も戦場で生きる事こそ己のあるべき場所だと思っているからな。』

『では、なぜ…』

『俺もあさひに会い、戯れ言を言う貴様の思いが少しはわかったからだ。
戦の時代はいつかは終わらせなければならぬ。
戦は、人足を揃えれば田畑を耕すものがいない。商人も寄り付かず商いは滞る。
国は…、民と共にあるのだろう。』

『その名刀が泣くぞ。』

『ふん。貴様が迷い、あさひを泣かせた時に存分に働く為にあるのだ。飾りではない。』

『友好協定に驚き、反旗を翻す輩も出てくるだろうなぁ。』

『そうなれば、斬るまで。』

「け、謙信様!戦はしないのでしょう?」

『あぁ、そうだった。つまらんな。』

「言葉の戦、にしてはいかがですか?」

『言葉か、俺の天女は面白いことを言う。』

「私がいた世は、武力より先に言葉の戦をして問題を解決していました。どうしようもなく、武力を使う場合もありましたが…
血も涙も流れない世は誰もが望みますから。」

『あさひ、お前もか?』

「勿論。」

『うむ。…ならば、お前に誓う。戯れ言のようにしか聞こえぬが、その言葉の戦、心掛けよう。
この刀は、お前を守り、腑抜けで使い物にならなくなった信長との勝負の為だけに抜く。』

『あさひ、そしたら春日山においで。』

『あさひは渡さぬ。貴様達がいれば腑抜けになどなる暇がない。』

ふん、少しだけ優しさを帯びた二色の瞳が、信長の杯に酒を注ぐ。
そしてまた、紅の瞳が謙信の杯に酒を注ぐ。
一瞬だけ視線を合わせると、すぐに空を見ながらこくりと飲み干した。

ふふふっ、と笑い信玄の方へ振り向くあさひは、信玄に酌をして、ゆっくり二人の視線の先の空を見上げるのだった。


戦術のこと。食べ物や酒のこと。
宴は、時を忘れ、盛り上がった。

少しだけ抜け出したあさひが、花畑で花冠を作り頭にのせた。
夕暮れがあさひを優しくつつむ。
簪の六色の飾りと着物の刺繍が、虹色に煌めいた。



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