第17章 虹色の誓い
『あさひ、信長に話した友好の話。お前が証人だ。信長が腑抜けの阿呆にならぬよう目を光らせよ。』
『姫、いつでも君の味方だ。何かあればすぐに文を書くんだ。迎えに行くよ。』
「また、…会えますよね?」
『友好協定なのだ。今までよりは安土に行っても問題あるまい。安土の酒も気に入った。』
『今度は、甘味屋で逢瀬だな。』
ちゅっと、信玄があさひの頬に口付ける。
『信玄、斬られたいのか。』
『あさひさん、君はすごいな。』
佐助がゆっくりとあさひに近づく。
『君がいるから産まれた協定なんだ。君のために二人が動くんだから。安土の将達だって、わいわいやりながらも君への視線は途切れない。
あさひさんは、皆に愛されているんだね。』
「皆がいるから、私がいるんだよ。」
(その無垢な心が、この時代には宝石より貴重なんだろうな。)
『あさひ、時々市に行くから遊びにこいよ。』
「うん、幸村。楽しみに待ってるね。」
振り返ると、安土の武将と幸村、佐助の手で宴の席はきれいに片付けられていた。
別れの時間が近づいていることがわかる。
「また、青空の宴をやりましょうね。」
少しだけ、涙を潤ませながらあさひが謙信と信玄に言う。
『姫に涙は似合わないよ。またすぐ会えるさ。』
『渡した手鏡で磨いた色香で、次会う時に、また酌をしろ。』
『じゃあ、城下でまたな。』
『また、お茶しよう。』
『佐助、勝手に来るなって言ってるだろ!』
四人は、颯爽と馬に跨がる。
『ご馳走さまでした。』
丁寧に頭を下げる佐助。
『今度は越後にこい。旨い甘味、紹介する。』
『食べすぎねぇように見張りにいきますよ。』
「謙信様も信玄様…、幸村、佐助、またね!」
謙信が突然、柄に手をかけすっと刀を抜き、信長の目先に向けた。
武将達が信長に向かって駆け出し始める。
しかし、信長は駆け出してくる者達を制するように腕を伸ばした。
『失望だけはさせるな。
友好協定とはいえ、腑抜けの阿呆にならぬよう目を光らせておるぞ。
ゆめゆめ忘れるな。』
信長に向けた刀を夕焼けの空高く掲げ、柄に戻す。
『あさひ、またな。』
謙信が駆け出すと、それを追って柔らかに手を振る信玄が続く。