第16章 華と風の宴
「この帯と帯紐、簪、皆から頂いたからそのせいですよ。」
『そうか。』
謙信は、風でなびくあさひの髪をひと掬いして耳にかける。
『俺からはこれを。』
「えっ。」
見ると、兎の飾りのついた手鏡だった。
「可愛い。いいのですか?」
『あぁ。その鏡にお前を沢山映せ。』
『あ、あさひさん。俺からは護身用のまきびし。
改良したんだ。』
「ありがとう。」
『護身用のって…。あさひ、俺達がいるだろ?』
『小言で秀吉さんに追い掛けられた時に使ったら?』
『家康!』
「あ、それいいかも!」
『あさひまで! 俺は兄貴として心配でなぁ。』
『おい、俺からはこれ。』
頭の上に、こん。と木箱が乗せられる。
『幸、ちゃんと渡そう。』
「幸、これは?」
『簪とかを入れる木箱。』
丁寧な花の彫刻にきらきらと硝子玉あしらわれている。
「素敵、大切にするね。」
『あさひ、それを探すのに幸は毎日町に通ってね。結局決めきれないと、私と選んだのさ。』
『信玄様!それは言わないって!』
『幸、どんまい。』
「皆様、ありがとうございます。大切にします。」
優しく笑うあさひを柔らかな陽の光が照らす。
鶴の簪がきらりと光った。
『宴の席で、上杉、貴様に言うことがある。』
『なんだ?』
急に静寂が訪れる。
『あさひを正室に迎える。婚儀は半年後あたりだ。』
(え、半年後…?)
(また重大事項をあっさりと言う…)
安土の武将達が驚く様子を見ながら、謙信は落ち着いて返した。
『あさひは、それでよいのか?』
「はい。」
『そうか。お前が選んだ幸せなら…よい。
ただし、少しでも泣かせるなら、安土に総攻撃だ。』
『それば是非とも避けたいところ。私どもが信長様とあさひを守りお支え致します。』
光秀が謙信に酒を注ぐ。
『祝言に来い。』
(えっ、安土に?)
秀吉が口を開けたまま、固まる。
それを見て、家康と政宗が笑う。
『あさひの白無垢姿、綺麗だろうね。』
信玄があさひの頭を撫でた。
あさひは顔を赤らめながら幸せそうに俯いた。