第16章 華と風の宴
「ここだったのですね。」
『あぁ。』
『家康に花冠でも作ってもらえ。あの時、よく似合っていた。』
「はい。」
あさひは、花を摘み始める。
信長は、その姿を見ながら遠くから聞こえる蹄の音に目を向けていた。
『あさひさん、元気そうで良かった!』
「あ、佐助くん!あの時は…、ありがとう。」
『落ち着いた様で安心したよ。』
『やぁ、麗しの天女。花を摘んでいたのかい?』
「信玄様。お久しぶりです。花冠を作ろうと思って。」
『花冠、それじゃあ益々天女になってしまうな。』
『信玄様、会ってすぐ口説くのやめてください。』
「幸村!」
『おう、久しぶり。』
『信長よ、酒は用意できているのか?』
「謙信様!」
『あぁ、あさひ。久しいな。越後に来る気になったか?』
「皆様、お元気そうですね。」
あさひが四人の方に駆け寄ると、少しだけ顔を曇らせた信長が手を叩く。
『客人が御見栄だ。始めよう。』
颯爽と羽織を翻し、信長は丘へ向かう。
五人もそれに続いた。
『客人とはいえ、信玄。あさひの形に手を乗せすぎだ。』
重箱を配る政宗が、ちくりと文句を言う。
『今日はあさひの為の宴だが、やはり切り合うか。』
『なに、やる気か!』
「ひでよしさん!」
『謙信様!』
あさひと佐助が止める。
「もぉ、折角なんだから喧嘩はやめて。」
『銘酒飲ませず連れて帰りますよ。』
謙信は名刀から手を引き、秀吉も座り直す。
『こちらは、安土銘酒。飲み比べと致しましょう。』
光秀が謙信の盃に酒を注ぐ。
『これ、伊達が作ったのか?』
『あぁ、甘味もあるぞ。』
『後程頂こう。春日山の甘味も持ってきた。
こちらも食べ比べだな。』
「家康、やっぱり真っ赤なのね。」
『何、悪い?』
『家康公の唐辛子、ひと振り頂けませんか?』
『え、いいけど…。佐助?
泣いてるの?意味わかんない。』
「佐助くん、良かったね。」
宴は、自然と始まり賑やかに進む。
『あさひ』
「謙信様…」
『よい、行け。』
「はい。」
信長の隣にいたあさひは、謙信や信玄の座る方へ移る。
『安土の暮らしはどうだ?』
「皆良くしてくれています。」
『そうか。何故か今日はいつもより艶やかだな。』