第15章 夢の始まり
信長が、すくっと立ち上がりあさひの前に座る。
『先に話したな。貴様には、この世の見せたいものが沢山あると。これから先、俺の側で必ず全てを見せてやる。
この身が果てるまで、貴様を愛し、貴様の為に世を作ることを誓う。
日ノ本一の花嫁として、俺の正室になれ。
俺からは、これだ。』
襖がすっと開く。
目に飛び込むのは、いつか見た深紅の艶やかな打ち掛け。桜の花が金や銀で刺繍され、袖回りにも細かな刺繍が施されている。
誰が見ても、この世に一つしかない贅を尽くした打ち掛けだった。
『お前の針子の仲間が仕立てた一品だ。
おれの、側でこれを着て座れ。
これからも、お前の住まう場所はこの城、天守。政務も含め、全ての時、必ず側を離れるな。』
「はい、はい!ありがとうございます。
私は、幸せ者です。一人でこの城に来て、不安もありましたが…。今は幸せです。
今日の宴が夢のようで…」
あさひは泣き崩れた。
『皆が貴様を思う。俺と同じように。
正室になっても、貴様は変わらない。
針子をし、世話役をし、皆で膳を囲む。
からかい愛でられ、俺の側で愛され生きろ。』
うん。と頷くと、あさひはまた泣き崩れた。
『まったく、安土の姫は泣くか笑うか忙しいな。』
『光秀、言い過ぎだ。あさひはその素直さがいいんだ。』
『はぁ、ほんと、疲れる。』
『それが可愛いんだろ。』
『あさひ様は、この城の太陽ですから。』
『さあ、あさひ。まだまだ宴は終わらぬぞ。
皆、聞け。あさひは、ゆくゆくは俺の正室となる。
これからもあさひを支えてくれ。』
『ははっ!』
広間の全ての者が一斉に頭を下げる。
そして、また祝い酒が振る舞われ、夢の宴は続くのだった。
『あさひ、酒に飲まれるなよ。今宵はお前の全てを俺に染め上げるのだからな。』
信長が耳元で囁き、ふわっと口付けをする。
またあさひは顔を赤らめるのであった。