第15章 夢の始まり
『続いて、徳川家康殿。』
黄色の羽織が目の前に現れた。
『姫、体調はどう?』
「うん、だいぶいいよ。」
『そう。あさひ、あんたは弱い。
雨に濡れたらすぐに熱出すし、何もない所ですぐ転ぶ。喉も弱いし、慣れ無いものを食べたらお腹壊すし。肌荒れやすいし、手なんてあかぎれにすぐなるくせに、水仕事したがる。
仕舞いには川に入って死にそうになる。』
「…ごめん。」
『最初は面倒で仕方なかったのに、あんたの笑顔が曇るのが嫌で、いつのまにか薬草や医学に精通しようとしてる自分がいた。
俺は…、あんたの体の事なら何でもわかる。
政宗さんが、あんたを食べ物から支えるなら…
俺は体を支えるよ。あんただけの典医になるよ。
体の不安は俺が取り去ってあげる。
だから、あんたは能天気に笑ってて。
姫。私、家康からはこちらを。』
花の堀細工の木箱を家康が開けると、そこには薬草を煎じたお茶が小分けに入れられ、手の軟膏や白粉、紅まで入っていた。
『肌荒れのお茶と冷えを押さえるお茶。肌に負担がかかりにくい白粉。紅は勝手に選んだけど。。』
「ありがとう。本当に…」
あさひは泣き声を漏らしながら微笑む。
『うん、あんたは笑ってて。』
『では、続いて。明智光秀殿。』
怪しげに笑う光秀が、あさひの前に座る。
『お前が来たとき、面白い奴が増えたくらいにしか思わなかった。
俺は、織田軍のために闇をも好んで進む。お前のような光は眩しいだけだった。
けれど、段々とその光に癒しを求める自分がいたのだ。お前の光は、俺にさえ優しくて、甘い。
俺は織田軍の影となり、お前も信長様を支えよう。
姫、俺からの贈り物は、こちらだ。』
小さな木箱を、あさひの目の前に光秀は置き、あさひに開けるように促した。
『あっ、これ…』
小さな鎖の首飾り。
蝶々結びの下につく硝子玉。
壊れてしまったと光秀に預けた、母からもらった首飾り。500年前の形見の品。
『お前は、これが前の世の形見と話していたな。切れた鎖は、この世で直した。これを付け、世と世を繋げ。お前は、消して独りじゃない。』
「ひっ、ひっく。ありがとう、光秀さん。」
『なんの、お前の光を絶やさぬためだ。』
にっこりと笑い、光秀は席を立った。
『では、最後は…』
『俺だな。』