第15章 夢の始まり
にっこりと笑い政宗が出ていく。
すると、武将達や末席の城の者達にも祝い膳と酒が運ばれた。それは、誰もがため息をつくほどの豪華さで、この宴にどれ程力をいれたかが手に取るようだった。
武将達が脇を固めるように座る。
『では、信長様。』
『今宵は、このあさひ姫の宴。存分に愛で存分に楽しめ。』
『乾杯!』
宴が始まると、最初は控えていた女中達や針子達があさひの側を訪れ始めた。
『あさひ姫、お元気になられてよかった。』
『私たちの様なものにまで優しくして頂き…。
いつまでも、お側にいさせてくださいね』
『針子仕事を熱心にされる姫様には、頭が上がりません。また一緒にやりましょうね。』
「はい。皆さん、ありがとう。」
あさひの眼にうっすら涙が浮かぶ。
『姫、いつもご贔屓に。』
「え、反物のご主人!」
『信長様に呼んで頂きました。いつも、私どもの反物で素晴らしい仕立て、ありがとうございます。』
「いや、そんな…」
『あれだけの仕立てをしていただけたら、反物も喜んでいるでしょう。これからも宜しくお願いします。』
「こちらこそ。」
あさひは店主の手を握り笑い合った。
祝い膳を食べ終わる頃、甘味が運ばれてきた。
あんみつ、きなこ餅、ずんだ餅、大福、みたらし…、どれも好きなものであさひは顔をほころばせた。
お茶をすすり一息入れる頃。
パン!と今度は光秀が両手を合わせる。
『今宵の宴では、我ら武将達よりあさひ姫様へ贈り物がございます。
まずは、豊臣秀吉殿。』
そういうと、また襖が開き秀吉が入ってきた。
「贈り物?」
『あさひ姫、あさひ。
お前がこの安土に来て一年だ。どこぞの間者かと疑ってしまったが、今はこの城、町にお前は必要だ。
お前の陽の光のような笑顔が好きだ。
家族のいない寂しさは、兄として俺が埋めてやる。
これからも、俺を頼れ。俺の命は、忠誠を誓う信長様の物だけど、あさひのことも、命をかけて守るよ。
この秀吉、あさひ姫様にはこちらをご用意致しました。』
広げた風呂敷からは、いつかに見た桜の花飾りと多彩な色の帯紐、そして橙を基調にした帯があった。
「秀吉さん…、これ!」
『どうぞ、お使いください。』
秀吉は頭を下げ席を離れた。