第15章 夢の始まり
あさひの体調は、ほぼ全快に近づき、広間で皆と食事を摂れるようになった。
穏やかに、賑やかに、何も無かったように時間が過ぎていく。
ある朝のこと。
『ようやくあさひの体調も落ち着いた。快気祝いと一年の祝いをやろうと思うが…。秀吉、状況はどうだ?』
『いつでも、手はずは整っております。』
『政宗は?』
『大丈夫です。』
『光秀、春日山へ連絡を。』
『承知しました。』
『あさひ、では貴様の為の宴は二日後とする。存分に楽しめ。』
「はい。楽しみにしています。」
にっこりと笑うあさひを皆が微笑ましく見つめた。そして、宴の準備に城は慌ただしくなり始めた。
※※※※※
宴の日の昼げ。
いつものように、皆で食事を摂る。
少しだけそわそわした様子の武将達と、宴の内容を何も知らないあさひ。
普段では滅多にない沈黙が訪れていた。
「あ、あの。宴、楽しみにしていますね。」
『あぁ、あさひ。俺が愛情込めて料理作るから、楽しみにしとけよ!』
「うわぁ、政宗が作るの? 楽しみ!」
『宴の進行は、私と秀吉様です。』
『三成、とちってしまえ。』
『俺は、あさひの反応を楽しむまでだ。』
ふふっと、あさひが笑いながら上座に目をやると、にこやかに笑う信長と視線があった。
『そうだ、あさひ。貴様に言い忘れていた。』
「え?」
『宴は…』
(あ、それ言ってなかったのか。)
と武将たちが思いながら、あさひの反応を待つ。
『宴は、二日ある。』
「…え、二日?」
目を丸くするあさひを見て、皆がクスリと笑う。
『今宵は、安土だけの宴。明日は…春日山のやつらも呼んだ。』
「え、ええーっ! 謙信様達もですか?」
『あぁ、特別だ。』
「わぁ、また会えるんだ。」
『俺の正室になることも伝える。存分に着飾れ。』
「はい!何着ようかなぁ?」
浮かれ始めるあさひを、武将たちは優しく見つめていた。
安土が夕闇に染まり始めた。
『あさひ、あ、間違った。あさひ姫。おられますか?』
「え、秀吉さん?」
羽織を着て、いつもより華やかな秀吉が部屋を訪れた。