第2章 その秘密
「あさひです。」
天守に響く愛しい声。
茶器に湯を張って、幾分も経たずにあさひはやってきた。
『入れ。』
ゆっくりと襖が開き、スッとあさひが入る。
『針り子仕事は終わったのか?』
「はい、ようやく。」
『そうか。作法は気にするな、好きなように座り楽しめ。』
コクリと頷くと、あさひは俺の向かいに腰を下ろす。
手慣れた手つきで茶をたてる。
香りが天守を満たして、日常を忘れさせるようだ。
「美味しい。」
『当たり前だ。俺がたてたのだからな。』
自らも出来上がった茶を飲み、カリッと金平糖を口に含んだ。
『あさひ、貴様の膝を貸せ。』
そういって、あさひの柔らかな張りのある膝に頭
をのせる。
天守閣の戸から、穏やかに射し込む陽射しと風が徐々に夕暮れを感じさせる。
気付けば、あさひは俺の髪をゆっくりと撫でていた。
「信長様、聞いてもいいですか?」
『なんだ?』
「鷹狩りって、ただの狩りじゃないんですか?」
『フッ、貴様には、ただの遊びだ。』
「でも、みんなは違うようでした。戦前のような…」
ほう、あさひでも空気で察する事が出来たのか。
少し賢くなったようだな。
『鷹狩りは、戦の練習だ。獲物を効率的に少人数で狩る為の策を練る。その策を使い、勝ち取れるように動く。個々の鍛練がものを言う。
領地視察も含め、守りが手薄になっていないか確認もする。』
「へぇ、そんな意味があるんですね。」
『まぁ、貴様は難しいことはよい。甘味を食べてゆっくり過ごせ。』
「はい。」
ふわりと笑う、その笑顔。
貴様は、そうやって
ただ笑っていればいい。
『ところで、あさひ。』
「はい」
『もうすぐ、貴様がこの世にきて一年になるな。』
「そう…ですね。あっという間で。でも沢山いろんな事がありました。」
本能寺で助けて、囲碁勝負をして。
逃げ出した貴様を、この手で助けた。
幸運を運べと連れ出した戦で
貴様の心が欲しいと願った。
今は、貴様のいない世など想像出来ない。
貴様がいるから、俺は俺でいられるのだ。