第14章 雨上がりの夕陽
信長は、あさひの耳元に肘をつき起き上がると、そのまま顔を近づけながら話した。
互いの鼻が近づく距離に、あさひは思わず目を見開いた。
『顔をよく見せろ。生きている事を確かめさせろ。』
「大丈夫です、生きていますよ。」
『出来ることなら、貴様を囲って誰にも見せず自分だけの物にしておきたい。
貴様の体全て、血の一滴まで俺の物にしたい。
俺は、俺自身が気付かぬほどに貴様に酔いしれている。』
「信長様、私も貴方に酔っています。
知らないお姫様と祝言を挙げると知ったとき、貴方の側にいられないなら命を投げ出してもいいと思ったんです。
私には、信長様のお側しか居場所はありませんから。」
『あさひ、もう、かれしは終いだ。』
「え?」
『貴様を生涯離さぬ。神が貴様を隠しても、必ず貴様を探しだす。貴様は、生涯俺のものだ。
よく聞け、あさひ。
俺は、側室は持たぬ。お前だけが居ればいい。
…、あさひ。俺の正室になれ。』
潤んだ瞳から溢れるあさひの涙を拭い、信長は深く深く口付けをした。
「…正室?」
ようやく唇が外れると、あさひは信長に尋ねた。
「信長様の正室なんて、すごく光栄ですが…。私は突然現れただけの者。この時代の婚姻は、国同士を結ぶような大切な…」
『くだらん。婚姻で結ぶような国の繋がりなどなくても、俺は天下布武を成し遂げる。
先程、貴様しかいらぬ、と言っただろう。
お前だけを、永遠に愛すると誓う。
…俺の決定は絶対だ。返事は?』
「…。」
『泣くな! 答えよ!』
「はい。」
『ふっ、それでよい。』
そうして、信長はまたあさひに口付けた。
ちゅっ、と音と一緒に唇が離れた。
『これをな、お前が来て一年の記念に、さぷらいずに言おうとしていた。』
「えっ。」
『そうしたら、…こんなことになってしまった。
さぷらいずは上手くいかん。皆も巻き込んでしまったな。』
「そう、だったのですか。」
『あさひ、お前の体調が戻ったら、快気祝いと一年の祝いの宴だ。安土一の盛大な宴で、貴様をもてなしてやろう。」
「はい、ありがとうございます。」