第13章 桃色の涙
御館様のこの様なお姿を、俺は初めて見た。
多分、きっと他の奴等も。
そんな姿をさらけ出すほど、あさひが御館様の中に居るんだな、と改めて思った。
そして、そんな御館様にしたのは、紛れもなくあさひで、人間臭くなったお姿が俺は嬉しかった。
いつの間にか、あさひの褥の周りには全員が揃っていた。誰も叫んだりすることはなく、静かにあさひを見守った。
そのままあさひの容態はあまり変わらず、陽が落ちた。政宗が皆の夕げにと握り飯を作ってくれた。
『膳で囲う夕げは、あさひの快気祝いと婚姻の申し込みの席でな。』と政宗は、握り飯を配りながら言い、最後にあさひを撫でた。
その夜は、誰も御殿へ帰ろうとはせず、各々が部屋の側に座り時を過ごした。
御館様は、あさひの手をずっと握りしめ、時には頭や頬を撫でいた。
そうして、ただ時間が過ぎていく。
あさひ、早く起きて笑ってくれ。
御館様も俺達も、お前がいないと真っ暗なままなんだ。
お前が俺達の陽の光なんだな。
みんなお前を愛しているよ。
そう祈ったのは、朝日が登り始めた明け方の事だった。