第13章 桃色の涙
『家康!いるか? 早くしろ!』
政宗の声が城門から響き渡る。
出迎えた秀吉、三成、家康はその光景に目を疑った。
政宗の跨がった馬の腹まで水が滴っている。
ぐっしょりと濡れた政宗の羽織のなかには、生気のないあさひが見えた。
『息はある。だが体が氷のようだ。早く暖めろ!』
政宗の叫びに、我に返った家康が指示をはじめる。
『体温が下がり過ぎたら命に関わります!
あの蔵で着替えさせます。あさひの着物持って来て!秀吉さんは、出来るだけあさひの部屋を暖めてください!』
『わかった。三成、火鉢を集めろ!』
『はい!』
各々が、あさひの為に走り出した。
蔵の中では、手際よく着替えが進み、温かな手拭いで体が拭かれていた。
(何やってんの、あんた。病み上がりの体で、川に入るなんて。馬鹿じゃない?
皆があんたに振り回されて、なのに皆一生懸命なんだ。皆があんたを愛している。
安土は、あんたがいないと真っ暗だよ。
早く目を覚まして、早く笑って、いつもの俺達に戻ろう。)
家康があさひの脈をとる。
ゆっくりだが、しっかりと拍動するのがわかる。
家康は、ふぅ。と安堵して、あさひの額を撫でた。
『熱っ!』
蔵からあさひを横抱きにした、家康の背中から声がした。
『大丈夫か?』
信長の乗っていた馬もまた腹まで水が滴り、信長の着衣もぐっしょりと濡れていた。
あさひを助けたのは、信長とすぐにわかった。
『今着替えさせました。秀吉さんと三成があさひの部屋を暖めています。脈もしっかりあります。
ただ、また熱が上がってきました。』
『…そうか。頼むぞ。』
『はい。あ、信長様も湯殿に行ってくださいね!あさひで俺は手一杯ですから。』
そう言うと、家康はあさひの部屋に走り出した。
※※※※※
あさひは、がんがんと焚かれた火鉢がある部屋で褥に寝かされた。
先ほどの氷のような体温が嘘のように、熱く火照っている。
側には湯浴を済ませ着替えた信長が、あさひの髪を撫で手を握っている。
家康が氷をいれた布袋をあさひの脇に差し込んだ。
『あまり体調も体力も戻らないうちに、また熱が出てきてます。正直、俺でもどうしたらいいか…』
廊下で様子を見る、他の武将達は天を仰いだ。