第12章 泡と幻
信長様は、取り乱していた。
織田軍の左腕として、長らくあの方の側にいたが、あんな姿は初めて見た。
駆けている馬から飛び降りて、真っ直ぐあさひのいる川の中に入るなんて。
俺と政宗の呼び止める声なんて聞こえていなかった。
あさひ、お前は、川の中に入って何をしていた?
俺は、俺達は、お前を独りにさせたのか?
皆がお前を愛しているのに。
噂がお前を囲ってしまったなら、俺達が、信長様が、すぐに助けてやる。
『あさひ!』
ほら、あさひ。
戦場で見たことのない慌てた、只の恋仲を思う信長様の姿だ。
あさひだけが、あの方を狂わす。
お前に会って、あの方は変わられた。
それは良い意味で、あの方を人間臭くさせたのだ。
今は、お前のお陰で、あの方は一層強くなった。
きっと俺達も。
もう、この織田軍にお前は必要なのだ。
お前の居場所はここにある。