第11章 壊れた歯車
はぁはぁ、ぜぃ、ぜぃ。
草履を片手に走るあさひの呼吸は喉元をつかえるようになり、すぐに足も動かなくなった。
(まだ、誰も来ないけど…、多分すぐに見つかって次は出られない。)
息をようやく整えながら辺りを見回すと、馬小屋が見えた。
『馬、貸してください!』
あさひの当然の勢いに、門番が驚いて見つめる。
慣れ親しんだ馬を見つけ、手綱を手早く引く。
(ごめん、連れていって、どこか遠くに。)
あさひは、力を振り絞ると馬に跨がり走り出した。
『あ、馬ぁ?! おい!あさひ!』
背中から政宗の声が聞こえる。
『くそっ、あさひのやつ、考えたな。こりゃ、本気にならなきゃダメだ。…あいつ、何考えてる?』
政宗は踵を返し、天守へと急いだ。
※※※※※
天守に着くと、先に行っていた家康があさひの異変を信長に報告していた。
側には書類を持った秀吉もおり、朝の報告の途中だったことがわかった。
『政宗さん!あさひは?』
『…連れ帰ったか?』
『姫は、馬に乗って城下へ向かった。』
『はぁ?』
『なっ、馬って、どういう事だ?』
秀吉が青ざめる側で、信長の表情は変わらない。
ただ、信長が纏う雰囲気が怒りと悲しみが混じるように変わったと、3人は手に取るようにわかった。
『俺一人ならもう無理だ。
信長様、あなたが動かなければ、あいつは壊れてしまう!』
『信長様、あさひが聞いた噂は、俺達の中ではあさひの事です。でも、あさひにとっては、見知らぬ誰かが自分の居場所をさらっていくと考えてもおかしくない。』
『御館様、俺達が世話をやく安土の姫は、あいつだけです。』
『…わかっておる!』
信長の声が響き渡り、天守は張り詰めた空気になった。
『秀吉、三成と共に政務は任せられるか。』
『勿論です。』
『政宗、馬を三頭準備せよ。俺とお前たち二人のだ。』
『はっ、今すぐに。』
『早く行きましょう。』
政宗が早足に天守から出て、家康と信長がそれに続く。
『あさひめ、俺にはそなたしか居ないというのに。記念日もさぷらいずも全て、あやつが居なければ!』
信長の呟きに、二人は視線を合わせ頷いた。