第11章 壊れた歯車
寝込んでから、何度も繰り返し見る夢があった。
赤い打ち掛けを着て、信長の側で微笑む姫を、末席から見る夢。
姫の世話係をするよう指示がある夢。
姫を囲んで、武将達が談笑し頭を撫でる夢。
その夢が、現実のように突き刺さり、居場所などないと追い討ちをかけるようだった。
(もう、限界。)
涙も出ないその体は、自分の物ではないようだった。
はっとして、あさひは指を数え、大名への使者としての使いの日があと三日もないことに気付いた。
(そうだ、使者として城を出たら、そのまま…)
あさひはふっと微笑んで、また褥に戻り眠りについた。
※※※※※
『ダメに決まってるでしょ!何言ってるの?』
『あさひ、お前はまだ寝てなきゃダメだ。』
翌日、あさひは家康と秀吉に怒られていた。
「少し体調が良くなってきたから、大名の書簡の使者に家康と行きたい」と話したからだ。
「家康も一緒に行くって、言ってたでしょ。」
『それは前の話。まだあんた、病人だよ?』
『高熱が何日も続いてたんだ、また倒れたら…』
「大丈夫。長い間座ってられるようになったから、連れていってよ。」
『あさひ、ダメだ。いい加減にして。
秀吉さんも言ってたけど、あんたは二日も高熱で意識もなかったんだ。ようやく政宗さんの食事を食べれて動けるようになったんだ。まだ寝てなきゃダメだ。』
「…大丈夫だって!」
大声を出したあさひを、秀吉も家康も驚いた。あさひが大声を出すなど初めての事だったからだ。
『あさひ、どうしたんだ?』
「…ごめんなさい。大丈夫、ごめん。
家康、迷惑かけないようにするからお願い。」
『ギリギリまで考えるから。信長様にも話す。』
「はい。」
あさひは、そのまますぐに視線を落とし、また殻に閉じ籠ってしまった。
あさひの部屋を出て、家康立ち止まる。
『あさひ、おかしくないですか?』
『あぁ、俺達から距離を置くような…。なんかな、家康。うまく言えないが…、あさひに色がないように感じるんだ。』
『原因ははっきりしてるから、誤解を解きたいけど…。なんか今のあの子、何するかわかんない。』
『あぁ、皆に話そう。』
二人は、立ち止まり、あさひの部屋を振り返った。