第11章 壊れた歯車
『反物屋から城までのあさひの様子も聞いてきた。』
『光秀!何処に行ってた?』
『珍客と話をしてきた。』
『珍客?』
『上杉の軒猿だ。』
『佐助が?』
『あぁ、宴の話をするために呼び、春日山に帰る道であさひを見付けたそうだ。あさひは、鷹狩りに行った丘にいた、と。』
『あの場所、遠いぞ。』
『佐助とあさひは、かなり話し込んだらしい。』
そう言って、佐助から聞いたあさひの状況を話始めた。
『安土にひとりぼっち、って…』
家康があさひの額の手拭いを取り、水桶に浸す。
『御館様、もう話しましょう。』
『俺もそう思います。』
『贈り物や宴が二日あるだけでも、驚きますよ。』
全員が信長の言葉を待った。
『あさひの心と体には変えられぬ。
目が覚めたら、俺から話す。』
『承知しました。』
『ありがとうございます。』
『あとは、あさひ様の体調が戻るのを待つだけですね。』
『あぁ。』
早くいつものあの笑顔が見たい、そう武将達は願った。
※※※※※
あさひの熱は二日続いた。ようやく熱が下がり動けるようになった頃には、宴も三日と迫っていた。
家康が診察と薬を飲ませ、政宗が三食作り届ける。
秀吉や三成も、仕事の合間に顔を見せた。
いつもの様に話しかけ、髪を撫でる。
しかし、あさひの表情は乏しく、必要最低限は喋ることもなかった。
二人同時に部屋を出て
『俺たちが目に写っても、見てくれていないようだよな。』
家康にそう言ったのは、政宗だった。
『えぇ、心を閉ざしているような。』
『信長様は?』
『こんな時に限って、忙しいんです。ここ最近は広間と天守の往復で、結局あさひに会えてません。』
『信長様が、あさひを思っていたからこそだが…、これ以上こじれたら…。』
『取り返しが尽きません。』
『秀吉さんに話してきます。』
『あぁ、俺も行く。』
二人はゆっくりと歩いていった。
政宗と家康が部屋から出て、少し経った頃。
あさひは、ゆっくりと褥から起き上がった。
まだ鈍い頭の痛みがある。
(また、あの夢…)