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暁の契りと桃色の在り処 ー紅ー

第10章 灰色の雨


あさひが城を背にして走り出した頃、家康は城に着きあさひの部屋に向かっていた。

『あさひは、まだ部屋?』

側女中に聞くと、昼から部屋に籠っている、と返事が来た。

『三成かよ…』

そう呟くとあさひの部屋まで行き、声をかけた。
しかし、返答がない。

『寝てるの?』

そう言いながらも、一抹の不安に襖を開ける。

『あさひ?! なんでいないの?』

綺麗に片付けられた部屋にその姿はなかった。

(どこに、、。って、
城なら誰かが気づいてる。城下か…!)

不意に、昨日の天守で聞いた噂を思い出す。

『あいつ!勝手に、…!』

家康は、もと来た廊下を戻りだした。

『家康様、どちらに?』

『城下!信長様に、あさひが城下に行ったらしいって、急いで伝えて!』

『あ、はい。傘は…?』

『傘?』

髪を軽く濡らす程度の雨は、勢いを増し始めていた。

『いらない!』

(弱いくせに、こんな雨の中どこに…
また熱出すなんて、困るんだけど。)

家康は、あさひを探しながら秀吉の御殿に向かった。


『秀吉さん!政宗さん、光秀さん!…三成、いる?』

秀吉の御殿に着くと、女中に手拭いを渡されるのを気づかず部屋へ急ぐ。

『家康?どうした? 城に戻ったんじゃ…』

『あさひがいないんだ!』

『なに!どういう事だ!』

秀吉、政宗が叫び、三成が立ち上がる。部屋の角に座っていた光秀がスッと目を開けた。

家康に一部始終の話を聞き、武将達は血相を変えて雨の中を走り出した。


『反物屋に行ったのでは?』

『三成、もう夕暮れを過ぎてるんだぞ?』

『秀吉様、念のため聞いてきます!』

『…悪い、頼む!』

『光秀さんは知ってると思いますが…
政宗さん、城下の噂、聞きました?』

『あぁ、秀吉に聞いた。あの噂、全部嘘じゃなくあさひの事だろ?』

『えぇ、でもきっと本人が聞いたら違う受けとり方しますよ!』

『だろうな、くそっ!』

雨があさひを隠すように、ざあざあと降りだした。












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