第1章 穏やかな昼 五色の誓い
『そのくらいにしておけ。』
フッと笑って信長が、言い放つ。
そして持っていた扇子を少しだけ開いて、
【パチン!】と閉じた。
和やかだった空気が、一瞬で緊張に変わる。
『時に秀吉。あさひでもわかるように、最近は目立つ謀反も戦もない。貴様ら、皆、呆けて鍛練を忘れてはいないだろうな?』
『ご安心ください、御館様。天下統一は目前と言えど休戦協定の春日山もおります。いつ何時でも戦に備えているのが安土の武将というもの。
皆、想いは同じでございます。』
その一言に、他四人も頭を下げる。
『ほう、そうか。』
張り詰めた空気は変わらない。【戦】と聞くだけでいくつもの記憶が蘇り、あさひの胸はチクリと傷んだ。
『…であれば、確かめるとしよう。明日、皆で鷹狩りに出掛ける。』
武将達の眼の色が変わる。
『変わらず俺の大切な駒で居続けているか、見定めるとしよう。』
(鷹狩り…? ただの狩りなんじゃないのかな?)
普段と違う武将達の雰囲気に、あさひは少し戸惑った。
『あさひ。貴様も共に来い。』
「え、私もですか?」
『貴様、針り子の仕事ばかりで最近は外にも出ておらぬだろう。明日行く森は、花畑もある。風にでもあたり、ゆるりとすれば良い。』
「わぁ。なんだか楽しそう。わかりました。
ご一緒致します。」
『信長様。
俺、せっかくなので、薬草摘みたいんですけど。』
『良いぞ、家康。』
「あ、家康。手伝おうか?」
『いい。
…それに俺、あさひのお守りじゃないし。』
「お守りって…。邪魔しないし、私も少し薬草について知りたくて。教えてよ、家康。」
『…邪魔しないでよ。』
うん!と太陽の様に笑えば、天邪鬼もフッと頬を緩める。
『一緒に行くのは家康だけじゃねぇ。
あさひ、いい獲物を沢山狩ってきて、旨い料理食わせてやるよ。』
「政宗、うん。楽しみにしてる!」
『あぁ。それに、せっかくだ。一緒に作ろうぜ。』
ニヤリと笑う藍色の眼が、料理だけの熱だけじゃないのは、誰から見ても明らかだった。
『あさひ、料理は俺も混ぜてくれ。』
「え?秀吉さん、何で?」
『兄貴として心配で仕方ないからだ。』
光秀が、からかうように笑いながら話す。