第1章 穏やかな昼 五色の誓い
(美味しかった…。)
開け放った襖から、穏やかな風が背中を撫でる。
少しだけ冷めたお茶が、喉元からほんのり体を包み込む。
最近は、みんなで昼の膳を囲むようになった。
上座には信長様。左側に光秀さん、政宗、家康。
ひとつのお椀にまとめて食べる光秀さん、気付けば無心で唐辛子を膳にかける家康。政宗が真ん中で二人の食べ方を正している。
右側には秀吉さん、三成くん、私。
昼に集まるようになってから、きちんと食事を摂るようになった三成くん。
それに安心した様子の秀吉さん。
穏やかな日常をみんなと過ごすのが、とても幸せで暖かい。
『なにを呆けている? あさひ。』
信長様の声に、食事を終え雑談を始めたそれぞれがあさひに目を向ける。
「あっ、いえ、特に何も…」
あさひは少し驚きながら俯いた。
『腹がふくれて眠たくなったのか?』
『光秀、からかうのはやめろ。針り子の仕事で疲れているんじゃないか? 針り子の連中に少しあさひの仕事を減らすように話してやるよ。』
『…はぁ、秀吉さんの世話焼きが、また始まった。』
『おい、家康。俺はあさひを心配して…』
「秀吉さん、ありがとう。でも大丈夫。今の仕立てが終わったら一段落するから。それに、針り子の仕事楽しいしね。」
『あさひ様の仕立てた品の評判が城下でもよく聞かれます。素晴らしいです。私も羽織をお願いしたいくらいですよ。』
『…三成。話聞いてた?』
家康が、はぁ。とため息をついた。
「みんなでお昼を過ごして、ご飯も美味しいし、戦とかもなくて穏やかで。何気ない会話を聞いてると、ちょっと安心しちゃって。」
あさひのその言葉を、集まる武将達が賑やかに穏やかに胸に落とす。
『今日の昼も、あさひの口に合って良かった。』
「政宗の料理、いつもすごく美味しくて…
習いたいくらいだよ。」
『今すぐにでも、教えてやるよ。』
政宗の熱を含んだ眼差しがあさひに向けられると、
『ダメだ、あさひ。料理どころじゃなくなるぞ。』
秀吉の言葉が、政宗の思惑を遮る。
『…また、始まった。』
『いつ見ても、貴様は世話焼きの兄貴だな。』
家康はため息をついて、光秀はからかうように笑った。