第10章 灰色の雨
『それはそうとあさひの贈り物は、皆決まったのか?』
光秀の一言に全員の頬が緩む。
『あぁ、だいたいはな。』
『私も決めました。』
『俺は奥州の職人に頼んだ。』
『俺は前から決まってます。』
『軒猿に、上杉と武田にも贈り物を持ってくるように話してある。』
『あとは、あさひに知られず、待つのみか。』
秀吉が茶を飲み終えた。
『秀吉さん、政宗さん、ご馳走さまでした。城へ戻ります。』
家康が、立ち上がる。
『あさひを頼んだ。』
『では、私がお見送りを。』
『一人で帰れるからいらない。』
『じゃあ、秀吉、もう少し台所貸してくれ。』
そう言うと、家康と政宗は部屋を出た。
光秀は、部屋の角でうたた寝を始める。
『俺の御殿なんだぞ!』
秀吉は、苦笑いで二人を見送った。
※※※※※
秀吉の御殿で和やかな軍議が始まる少し前。
あさひは、2枚の小袖の襟元の刺繍を終えていた。
朝と昼を食べる以外は、誰に言われるでもなく自室に籠っていた。何も考えない様にするには縫い物しかなかった。
(金糸と銀糸無くなっちゃった。こんなに綺麗に刺繍して、馬鹿みたい。私は着ないかもしれないのに…)
ふぅ、とため息をつき、小袖を風呂敷に包み押し入れにしまう。
(糸、買いにいこう。)
あさひは、静かに自室を出て馴染みの反物屋に向かった。安土の空は、今にも雨が降りそうだった。
※※※※※
「こんにちは。」
『あっ、あさひ様!どうしたのですか?』
反物屋の店主が何時になく驚いた。
「糸を頂きに来ました。金糸と銀糸、ありますか?」
『えっ、あぁ。最近、金糸と銀糸が出払ってね…。
あ、ありましたよ! でも一つずつです。足りますか?』
「反物屋さんで糸が出払うなんて、何かあったんですか?」
『さぁ? 城の方が買い付けに来ましてね。』
店主は苦笑いで答えた。
「でも、手に入って良かったです。」
『何かまた仕立てているんですか?』
「えぇ、喜んでくれたら嬉しいんだけど…」
『そうですか。』
あさひが金糸と銀糸を手に取ろうとした時だった。
『おい、知ってるか?信長様がようやく正室に姫を娶るらしい。』
『あぁ、俺も聞いた。なんでも他国の天女のような姫で武将達も認めているそうだ。』