第10章 灰色の雨
『政宗さんは、どこにいるんですか?』
秀吉の御殿でお茶をすする家康は、御殿の主に尋ねた。
『台所だ。宴の料理を試して作ってるんだそうだ。自分の御殿でやれって言ったんたがな。
家康も、なんでいるんだ?』
『一休みです。あさひの事聞きたくないんですか?』
『あさひ様は、落ち着かれましたか?』
『探るような事はしてないようだけど、。』
『どうかしたのか?』
『無心で着物縫ってる。声かけても聞こえないときもあるって女中が言ってた。
三成みたいだからやめてほしいんだけど。』
『昨日の話の事もある、心配だな。』
秀吉は、宴の人数や準備をまとめていた書類から手を離した。
『昨日、信長様は何て?』
『あさひを城下に出すなって。内密に準備をするのは変わらないらしい。』
『ふぅーん。』
『最悪な事態にならなければいいのですが。』
すると、スパン!と襖を開け政宗が入ってきた。
『出来たぞ、酒の肴にもなる一品だ。試してくれ。』
手には、皿にのった揚げ芋と季節の山菜が湯気をたたせていた。
『あさひに教えてもらった料理なんだ。
旨かったから山菜も添えて作ってみたんだ。』
秀吉が文机を片付け、政宗が皿を机の中央に置く。
『ふっくらしていて、美味しいですね。』
『やっぱり七味に合う。』
『もう、料理の方はあらかた決まったか?』
『あぁ、今食材を各方面から取り寄せている。』
そうか、と秀吉は頷いた。
『失礼致します、秀吉様、』
襖の外から声がかかる。
『なんだ。』
『光秀様がいらっしゃいました。』
『え?』
『は?』
四人が驚くと、空いた襖からにやりと笑った光秀が、顔を出した。
『お前、なんで?』
『先ほど、上杉の軒猿と会ってきた。その報告だ。』
『佐助は何て?』
『上杉も喜ぶだろうと。必ず伝えあさひの為に連れてくるそうだ。刀を抜かぬことも約束してくれた。』
『そうか、良かった。』
『政宗、この料理は?』
『あさひが教えてくれた料理だ。宴に出そうと思ってな。』
『そうか、ひとつ頂こう。』
『味音痴がわかるのか?』
光秀は揚げ芋を頬張ると、部屋の角に座った。
『皆さん集まりましたね。やはり、秀吉御殿軍議ですね。』
『何それ?』
『なんで、俺の御殿なんだ…』