第9章 噂と誤算
『なんだったのだ? あれは。』
逃げるように去るあさひを見送ると、信長は秀吉、三成、家康に問いただした。
三人は目を合わせる。少しだけ沈黙があった後、家康が口を開いた。
『あくまで推測ですが…、城の慌ただしさや俺達の動きにあさひが怪しんでいるように思います。』
『ほう。』
『「城が慌ただしい、秀吉さんや三成が城で仕事をしなくなった、どうしたのか?」と聞かれたことがあります。』
『なっ! 家康、ホントか?』
『新しく傘下になった国からの献上品が多いとか適当には話しました。でも、納得してはいないようでした。』
『御館様、今からでもあさひに話しましょう。内容ではなく宴があることだけでも…』
『お前達は、あさひの驚き喜びぶ姿を見たくないのか?』
『それは…、見れたらいいとは思っています。
ですが、!』
『信長様。秀吉様の御殿に通う際に、気になる噂を耳にしました。』
『噂? 三成、申せ。』
『はっ。安土の信長様が、祝言を挙げる準備をしている。との噂でございます。
私や秀吉様、他の皆様から出た噂ではありません。信長様、ご存知でしたか?』
三成の話に、信長が、はぁ。とため息をついた。
『御館様、何かお心当たりでも?』
『先日、城下のあさひがひいきにしている反物屋に行った。』
『聞いておりません!お、お一人で?』
『秀吉、我が城下だ。散歩して何が悪い。』
『それで、信長様。反物屋で何を?』
家康が話を戻す。
『城の針子にあさひの打ち掛けを仕立てる様に指示したのは知っているな。その針子から、金糸と銀糸が足りないと言われてな。買いに行ってきた。
ついでに、反物屋の主人に宴に来いと話してきた。』
(噂の原因、これだ…)
秀吉と家康は目を合わせた。
『反物屋の主人に宴の話は口止めなさりましたか?』
『あぁ。三成の言うように口外せぬよう話した。』
『あさひ様の事をご存知な方なら、口外はしないでしょう。ただ…。
『ただ? なんだ、三成。申せ。』
『信長様ご自身で出向いたのです。噂とは、知らぬ間に沸いて出るもの。信長様と反物屋の主人の姿や話をうっかりにでも聞いた者がいたら…。』
『あさひの耳に入るのは時間の問題です。』
そう言って家康が信長の方を見ると、信長は目を瞑っていた。