第1章 穏やかな昼 五色の誓い
『あさひ。
もうすぐ昼だぞ? どこへいくんだ?』
風呂敷包みを抱えて、城下へ行こうとする私に、秀吉さんが声をかける。
「頼まれてた品が出来たから、届けようと思って。」
『昼飯食ってからでもいいだろ?』
「うーん、でもたのしみにしてるかもしれないでしょ?早く渡してあげたいし」
『そうか。ま、お前らしいな。一緒に行くか?』
「大丈夫だよ。秀吉さんは、ほんと世話焼きだね。」
『お前の兄だからな。用事が済んだらすぐ戻れよ!』
「はーい! いってきます!」
柔らかい風が、艶やかな髪を撫でる。
あさひは、慣れた城下への道を楽しそうに
歩き出した。
『あさひが現れてから、もうすぐ一年か。
色々あったが…
あさひが幸せなら俺も幸せだ。
良しとするか。』
秀吉は、そう呟いて、政務のために執務室に戻った。
あさひの仕立てる品は、
細かい所まで丁寧で使う者の事を考えているためか評判がいい。安土の武将たちが気に入り身に付ける姿が、噂を呼び、今では注文をする順番まで出来ていた。
「また、よろしくお願い致します。」
安土の姫君とは思えないような、丁寧にお礼をして、城へ戻る。
(お礼にって、甘味を頂いちゃった…。お昼食べれるかな。)
そんなことを思いながら、透き通る空を見上げる。
自分の知っている時代より、澄み渡り高く高く続くような青空へあさひは顔を向け、すーっと息を吸い込んだ。
(もうすぐ、一年か。)
足袋の履き方も、草履の履き方も慣れた足元を見て「ふふっ」と笑いが込み上げる。
賑わう城下の町並みと、それを守るようにそびえ立つ安土城。
見慣れた安心する光景が自分の在り処だと思うと、幸せで頬が緩む。
『緩んだ口に、虫が入るぞ。』
何処からともなく、からかいまじりの声が聞こえた。
「みっ、光秀さん!」
『いつもながら、お前の百面相は見ていて飽きぬな。』
「もぉ、からかわないてください!」
『ククッ、愛らしくてな。すまない。
しかし、何時まで此処にいる気だ?
秀吉が探していたぞ。御館様もおまちかねだ。』
(げっ、早くいかなきゃ、秀吉さんに怒られる!
…あと信長様にも。)
「光秀さん、先にいきますね!」
あさひは愛しい人達を想いながら
城へと駆け出した。