第8章 七色の企てと違和感 ー白と赤ー
(よし、二人分の小袖が出来た。あとは、襟元や袖口の刺繍や飾りを考えよう。)
手元には、信長と自分の小袖が並んでいる。
揃いの小袖は、離れていても互いを暖め合えるように、と願って作った。
自然と顔も綻ぶ。
『おーい、それはこっちだ。』
今日も城は騒がしい。
それは、日に日に増しているようだ。
気にするな、と言われれば気にするのがひとの性分で、あさひは、静かに廊下を出た。
陽の光はあるが風が強い。
あさひの足音を風音が消していく。
広間から近い部屋を通り掛かると、あさひが見たことのない豪華絢爛な品々が並んでいた。
「わぁ、。」
見とれながら、ゆっくりと部屋に入る。
華やかな細工をした箱や反物が包まれた布。
漆塗りの箱。
少しだけ触ってみたいと、手を伸ばした。
その時だった。
『こら、勝手に入るな。』
背筋が凍り振り返ると、不敵に笑う光秀が立っていた。
「ごめんなさい、綺麗だったので、つい。」
(なんか最近こんなのばかり、謝ってばっかり。)
『それは、信長様への献上品だが…確認がまだなんだ。』
「確認?」
『あぁ、毒針や毒液がぬっていないか。そういう確認だ。下手に触って怪我しても知らんがな。』
「そうですか。じゃあ、尚更ごめんなさい。
止めてくれてありがとうございます。」
フッと笑い光秀が頭を撫でた。
「新しく傘下に入った国からの献上品でしたっけ?」
『ん? 新しく…?』
「家康が言ってました。」
『あぁ、あれか。そうだな。それもあるがそうじゃないものもある。』
顔色一つ変えずに光秀は、家康の嘘にすんなりと乗った。
『俺が直接見聞きして取り寄せた品もある。』
「へぇ。どんなのがあるんですか?」
『そうだなぁ…』
光秀は、南蛮の香や装飾、布や筆、様々な品をあさひが分かかりやすいように、説明し始めた。
『あとは、南蛮の首飾りも見せてもらったことがある。細かな鎖で目立たない飾りがついていたが輝きは素晴らしかった。』
「首飾り…。」
『どうした?』
「こちらに来た時に付けていた首飾りの鎖が切れてしまって。あちらから持ってきた品だから、捨てずに残しているんです。」
『見せてみろ。』
「え?」
『早く取ってこい。』
「は、はい!」
あさひは部屋へ駆け出した。