第6章 七色の企てと違和感 ー緑と紫ー
『さっきは、すまなかった。急ぎの仕事でな。』
『申し訳ありませんでした、あさひ様。
あさひ様が悲しんでいないかと心配で。秀吉様とこちらに。』
「…あ、ううん。私こそ急にごめんね。もう大丈夫だから。」
先程の違和感を感じさせない、いつもの二人の話し方。
(気にしすぎ…かな?)
そう思い、あさひは部屋へ二人を招き入れようとした。
『あさひ、城下へ行かないか?』
「え?」
『天気もいいし、ふらりと散歩でもしないか?』
『先程のお詫びに、甘味ご馳走致します。秀吉様が。』
『あ、おい、三成。…いや、まぁいい。
そうだな。さっきの詫びだ。甘味食べに行こう。』
賑やかな二人が、あさひに安堵感を与えた。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。少しだけ準備するね。」
『では、城門でお待ちしています。』
そう言うと二人は襖を閉め、歩き出した。
部屋では、あさひが慌てたように箪笥(たんす)から羽織を探している音がする。
にこやかにその音を聞きながら、何時になく真面目な顔で三成は秀吉に言った。
『やはり来て正解でしたね。』
『あぁ、怪しんでたな。これからは、手間だが御殿でやろう。半月後、喜ばせたいしな。』
『そうですね。頑張りましょう。』
あさひのために、そう思う二人。
しかし、あさひの中に芽生えた疑惑を、二人は知る由もなかった。
「おいしい! こんなに、いいの?」
『あぁ、今日の詫びだって言ったろ。もうすぐきなこ餅もくるからな。』
「もう、いいのに…。ありがとう。」
優しく笑うあさひの笑顔が二人を満たしていく。
『ところで、あさひ様。その簪、素敵ですね。』
長い髪は、優しく結い上げられ桜の飾りの簪が顔を出す。
「ありがとう、お気に入りの一つなの。」
するとすぐに秀吉が続ける。
『あさひ、欲しいものは無いのか?』
「え、急にどうしたの? もう十分だってば。」
『別に今じゃなくてもな、何かないのか。』
『私もあさひ様の興味のある品、気になりますね。』
二人の視線が、あんみつを頬張るあさひに向けられる。
(急に、また何? やっぱり変だな。)
ごくっとあさひは白玉を飲み込んだ。