第6章 七色の企てと違和感 ー緑と紫ー
天守での軍義から数日が経った。
「最近、みんなちょっと忙しそう。」
文を配り終え自室に戻ろうとしたあさひは、いつもより少しだけ人通りが多くなった廊下を見た。
「今朝の軍義でも何もなかったけどな。」
そう言いながら歩くと秀吉と三成が文机に向かって仕事をしている姿が見えた。
「あ、お茶でも運ぼうかな。」
あさひは、台所へ向かった。
※※※※※
『それで、針り子は何人だ?』
『えー、十人弱かと。』
『側女中が五人だろ、城勤めの人数を入れて…。これかなりの数だぞ。』
秀吉、三成は半月後に迫る宴の人数確認や席配置など細かく決めている真っ最中だった。勿論、あさひに見つからないように小さな声で。
すると、誰かの気配を感じた。
『秀吉様!』
三成が声をかけながら立ち上がり、少しだけ開いていた襖を勢い良く開ける。
『あさひさま…』
「わぁ!三成くん。急に襖開けないで…、よ。」
三成の後ろで、秀吉が慌ただしく文や筆、今まで書いていたであろう書類を片付け始めている姿が見える。
「あ、ごめんね。お邪魔だった? 二人が仕事してる姿が少し見えたからお茶でも…、って。」
三成が一瞬だけ目を反らしたのを、あさひは見逃さなかった。片付けに必死な秀吉も何だか不自然に感じた。
(三成くんも秀吉さんも、なんか変。…なんか不味いときに来ちゃったかな。いつものエンジェルスマイルも、ちょっとぎこちないし。なんか、帰りたい。)
「これ、お茶。邪魔してごめんなさい。」
盆にのせた二つの湯飲みを、秀吉が片付ける書類から離れた文机に置き、慌ただしく部屋を出た。
『あっ、あさひ!』
『あさひ様!』
※※※※※
息を切らして自室に戻ったあさひ。
パタン、と襖を閉めてその場に座り込んだ。
「なんか、おかしい。」
確信はないが、自分の知らない中で何かが始まっているような、不確かな違和感があさひの中に生まれ始めた。
『あさひ? いるか?』
襖に寄りかかりどのくらい経っただろうか。
秀吉の声に、あさひは我に返った。
「あ、うん。います…。」
スッと開く襖から、秀吉と三成が姿を表した。