第16章 学生編・初秋のConcert
「ううん、彼等に頼んで良かったと思ってね」
「あれでプロじゃないって言うんだからバンドのプロって何だろうって思うな…」
「何を仰いますやら坊っちゃま」
と気配無く現れる弓弦に桃李が声にならない悲鳴を上げる。
「彼等は立派なプロですよ。ただメジャーデビューしてないだけ…メディア露出をしてないだけです」
勿体無いですね、といつもの笑みを浮かべる。
※※※
-すん、すんすん-
「何じゃわんこ。もうすぐで出番じゃ大人しくせぃ」
次の次くらいに出番を控えた我輩達UNDEADもそろそろ準備をしようと舞台袖に待機していたら、わんこが神妙な顔付きで周りの匂いを嗅ぎ始める。
「鉄…血の匂いだな。誰か怪我してるだろ?」
一同「?」
「ぁん?怪我に気付いてないパターンかよ!しょーがねぇ、俺様が怪我人を探し当ててやる!」
と、くんくん周りの匂いを嗅ぎ回る。うーん、やはり何処からどう見てもわんこ…と思ってたらピタリと動きを止める。
「コイツだ!」
「大神、それはお筝だ」
「テンション高くなりすぎて嗅覚でも鈍ったかえ?」
「んな訳ねぇだろ!確かにこっから…」
不満げに吠えるわんこに肩を竦める薫くんは薄暗く確認しづらいと携帯の明かりをお筝に向ける。
「良く見るんだわんちゃん。楽器が血を流すハズが………ひっ!?」
ガシャン、と薫くんが小さく悲鳴を上げながら携帯を床に落とす。それを親切なアドニスくんが拾って再び、お筝に明かりを射す。
「これは…確かに血だ………」
主に絃や…龍甲に付着している血痕。鮮血滴る、とまでは言わないが乾燥しきってる程、極小量と言うレベルでも無い。
お筝に触れるのはセッティングを任されていた先生達と奏者である朱音くんのみ。とは言っても血の付着具合から考えてこれは完全に後者の血。先生達は絃等に触れては無いハズ。
-ジャカジャカ-
「………」
開演からずっと裏から音を聞いてるしチラチラと演奏してる様子は見てるが演奏には寸分の狂いも無いし寧ろ熱量はどんどん上がってきてる気がする。
開演前のじゃれ合いで何処か怪我をしたのかも知れないが演奏を見聞きする限り大した事は無いのだろう。大きな怪我だったらそれこそトラブルが起きてるだろうし。
「嬢ちゃんや」