第12章 学生編・初秋のImpromptu
そう言うとまるで体操選手みたいにクルリと回転しながら静かに降り立つ。何だこの生き物は。忍者か?どっかの誰かが喜びそうだな。
『紫音と黄音、スタジオに篭ってるでしょ』
『うん』
『"藍音"も呼んで三人で譜面起こしといて。一番とラスサビくらいで』
『引き受けるの?やっさし~!』
『夕方までには終わらせる様に伝えて。夕方からは"朱音"も合流するだろうから今日中にはある程度叩き込まないと間に合わない』
夕方までって…後数時間しかないのにそれまでに全てを譜面に起こすのはどんな超人でも無理なんじゃ…
「凄いでしょ、氷鷹の坊や」
「えっ!?あ、はい!?」
急に池上先輩とやらに声をかけられて声が裏返る。生徒会長の…現三年生達の先輩で、とても凄い人だと聞いている。
「ウチのボーカルの紫音はね、絶対音感持ってて耳コピなんてお手の物よ」
「そう、なんですか…?」
『余計な事は喋らないでってこないだ怒ったと思いますが』
「ぅわ、御免なさい!もう喋らないからその敬語やめて!ブロークンハートだわ!」
…本当に凄い人なのだろうか。
※※※
「マジか…鬼だな姫サン」
「まぁ時間考えると仕方無いよねぇ」
『ほら、無駄口叩かないでー』
姫に言われて離れのスタジオ行けば椎名と脳筋パイセンが新曲の打ち合わせをしてたから中断させて音源の譜面起こしに三人で勤しむ。
「この紅月ってユニットの曲さ、普通にバンドで生演奏するより和楽器組み込んだ方が良くね?」
『和楽器って…私、和楽器触った事無いけど』
「オレも精々、組合の和太鼓くらいしか…」
「組み込むだけだよ。言うて俺だって和楽器は三線しか出来ないけど三線と三味線は似たようなモンだから何とかなるでしょ?和音さんも尺八なら出来るし姫さんはお筝得意じゃん?」
そもそも三線は和楽器なんだろうか。沖縄の伝統楽器なのは知ってるけど…いや、和楽器に入るか。沖縄って日本だし。
「下宮はキーボードのままでゴトー先輩が和太鼓、俺が三線、和音さんが尺八で姫さんがお筝」
『その和楽器の調達は?』
「和太鼓はゴトー先輩の組合から借りられねぇの?」
「まぁ借りるくらいなら」