第11章 学生編・初秋のCode
『そうか。そうなんですね。貴方もそっち系ですね?』
「そっち系?」
『殴られたがりの変態ドM』
えっ。池上先輩にそんな趣味があったとは…いや、でも確かに殴られて喜んでた様な…しかもシャーペンを折る程の握力の持主…結構、と言うより相当痛いのでは。
学院時代の池上先輩はオラオラ系だったからオネエ系に変わってて大層驚いたが…そうか。そんな趣味があったのか。
「語弊がある様じゃから言うておくが我輩は痛いのは嫌いじゃ」
『冗談ですよ』
「えっ」
『でも様はやめて下さい。間違って殴ってしまいそうになるので』
真顔で冗談を言うタイプだったのか、この子は。
※※※
語学を教えてくれる心地………良い、声、に耳を傾けながら視線を上に上げると参考書を見ながら解説をしてくれる麗人の姿。アイドルなだけあってやっぱり顔は目の保養になるし多分性格も面倒見が良くて悪くは無い。
『そう言えば』
「?」
『NoGenderの事、何も聞いてきませんね。貴方みたいな聡明な人は何かしら情報を得ようとするのかと思ってました』
「聞いたら答えてくれるのかや?」
『いいえ』
拒否を即答すれば肩を竦める。
「聞きたい事は山程ある。個々の能力は高いのにプロにならない理由とか素性が知られたら解散の危機にあるにも関わらず音楽を続ける理由とか」
驚いた。大体の人は年齢層や性別層を聞くのに、そんなコアな質問が来るとは。
『これは…私(わたくし)の独り言ですけど』
口が勝手に動いてしまった。
※※※
『各々、届けたい人がいるんです』
ノートから視線を逸らさずに口を開く。
『言葉に出来ないシャイな人達ばかりで。音楽でしか表現出来ない不器用な人間の集まりなんです』
言わんとしている事は分かる。言葉で伝えられれば楽だが言葉では難しい事もあるから音や歌で表現しようと必死で…でもそれはなかなかに伝わりにくいものだろう。一通りNoGenderの曲は聴いたが誰かに向けてるモノだと言うのは何となく感じていた。
『だからファンも燻って拗らせて迷っている仔猫ちゃんと仔犬君が多い』
「まるで演者の様な言い方じゃの」
『マネージャーも演者と変わらないですよ』
この子も歳の割には達観した物言いをする。