第10章 学生編・初秋のIntroduction
あ、このアングルはいかん。正面に回ってから声をかければ良かった。こんな発育の暴力は目のやり場に困る。
『あ、ちょうど良かった』
「?」
『弟さん、どうにかして下さいませんか?』
と彼女が指差すのは、これまた際どい彼女の太腿を枕にして気持ち良さそうに眠る可愛い弟だった。
『ちょっと深刻そうな顔しないで下さい。私(わたくし)まだ何もしてませんから』
まだ…?まだとは一体どう言う意味だ。
※※※
「何じゃそう言う事じゃったか…すまんのぅ、ウチの凛月が」
『と、思うなら弟さんを起こして下さい』
そう言ってみたものの朔間さんは机を挟んだ向かいのソファに腰掛けて机に積み重ねてた本を一冊、手に取るとパラパラと捲る。
アタシの膝の上で眠る朔間君を見た時は"この女、俺の可愛い弟をそそ抜かしたな"みたいな顔をしてたのに事情を話した今やこの様子を微笑ましく見てる所存である。
「英語、仏語、中国語の書物ばかりじゃな」
『………読めるんですか?』
「まぁ我輩、留学経験も沢山あるからのぅ」
うっわ、ムカつく。アイドル養成学校の生徒のくせに頭良いと来たか…いやまぁ池ちゃんも頭は良いけども。でもあの人は日本語すらも怪しい人なのに。
「ほほぅ…エリートにも苦手科目はあるみたいじゃな」
『…悪いですか?』
「いやいや、人間味があって良いと思うぞぃ」
人間味って…そりゃ人間ですからね。
「手を貸してやろうか?」
声のトーンと雰囲気が変わったのに気が付いてノートから顔を上げると頬杖を付いて妖艶に微笑む魔物が居た。
『見返りは何を求めるんですか?』
「そんな事はしねぇよ。可愛い弟が世話になった礼だ」
『………』
※※※
「…となるから此処は…」
『成程』
-カリカリ-
『こうなる訳ですね』
「正解じゃ」
流石あのエリート学校の生徒。少し教えただけで正解を解釈する理解力と頭の良さ。これだけ分かれば80点は軽いだろう。
「語学系のテストは明日かぇ?」
『いえ、明後日です。低くても90点は取らなきゃいけないので』
90点も…?何でまたそんな高得点を狙っているのだろうか。
『私(わたくし)の学校、赤点は70点なんですけど…』