第9章 学生編・終夏のMute
くるり、と後ろを向く。
「レントの口封じは終わったクオン?」
「勿論バッチリ~」
「………」
清々しい笑顔を浮かべる池上先輩と顔を青白くしたドラム。俺達が話に聞き入ってる間、何があったんだろう。
「僕もねぇ…あの口封じだけは絶対嫌だなぁ…」
「うふふ、無駄話が過ぎちゃったわね。遅くならないうちに帰さないと」
※※※
「池上先輩、一ついいですか?」
「なぁに?」
エレベーターに乗り込む前に天祥院が思い出した様に声をかける。
「マネージャー…桜音さん、だっけ?彼女に顔合わせの件は大丈夫とお伝え下さい」
「あら?どうして?」
「各々事情があるのが分かりましたので。それに先輩と黄音さんはうっかり口を滑らせる傾向があるので隠し事には向かないでしょう」
"顔合わせでうっかりされて暴動になってもらっては困るので"と言う。ワタシよりも二つも下なのに何て生意気な。
「ですがリハの件や他の事について相談したい事があるので話し合いの席を設けていただけたらと思います」
「そうねぇ…」
確か体育祭は来週。つまりリハは前日にすると考えて、それまでに話し合いは終了させなくてはならない。だけど姫様は新学期始まる明日から早々にテストで来週の頭まで忙しい。かと言ってテスト終わってからだと遅いし…今週末に時間を作ってもらうしかないか。
「土曜日か日曜日…ウチにいらっしゃいな。土日だったらワタシも仕事は休みだし姫様も学校は休みだから時間は取れるハズよ」
「分かりました。では日にちと時間は改めて連絡させていただきます」
「はぁい。じゃ皆、気を付けて帰ってね」
ウィーン…とエレベーターが閉まり上の階へ登って行くのを確認して力を抜く様に壁に背を預ける。
「駄目ね…知人相手だとどうも気が緩んじゃう」
結局後輩の前だからって格好付けて掟破って自分で正体明かしちゃうし天祥院の言う様にうっかり口を滑らせてしまいそうになる。
「俺達大人がしっかりしねぇとな…」
「そうだよしっかりして。僕、解散なんて嫌だからね。もっと皆と曲作りたいし、アカネさん………姫さんと歌いたい」
「分かってるわよ。次からちゃんと気を引き締めていく」