第9章 学生編・終夏のMute
「…にしてもやっぱ姫サンすげぇよな」
ぽつりと零れた黄音の言葉に視線を上げて耳を傾ける。
「てめぇの後輩のアイドル達、皆アカネさんが男だと信じて疑ってねぇだろ」
「確かに」
普段の姫様、マネージャーとしての姫様、NoGenderのベースとしての朱音様。見事に三役、完璧に演じきっては居るけども。一人二人…否、数名は達観した厄介な子が居る。
「姫様の演技力に頼りっぱなしは良くないわ。彼女の負担になるし…何よりアイドル科と言えど聡い子は多い。俺達が智桜姫を守らなきゃならない」
※※※
「ねぇ兄者」
帰り道、珍しく凛月が話しかけて来る。
「何じゃ凛月。可愛い弟よ!」
「ウザい…じゃなくて。兄者はどっちだと思う?」
何が、とは聞かない。
「分かんないよねぇあの二人。声も外見も仕草すらも中性的」
「そうじゃのぅ…」
ボーカルは特に中性的。だが恐らくボーカルは男…だとしたらあの音域の広さ、かつ男と女の声の使い分けは天賦の才。
ベースは…正直言って分からない。ボーカル程、音域は広くは無いが男声と女声の差はボーカルよりハッキリしているし、あのメンバーの中じゃ声も容姿も一番の男前………しかし仕草の所々に女性らしい品がある。特に歩き方。
「難しい質問じゃな」
「兄者でも難しい事あるんだ」
「当然じゃろぅて。それより凛月、手を繋いで帰らんかぇ?」
「うわ、キモ。通報しますよ」
「ひどっ!?」
※※※
『ん、ん~っ!』
と車から降りた後に身体を伸ばすと至る所からパキパキと音が鳴る。
『みいありがと。お兄さんも送ってくれて有難う御座いました』
『ううん、ゆっくり休んで明日からのテスト頑張って』
『有難う』
-ブロロロロロ…-
と走り去る派手な車を見送って再び身体を伸ばすとやっぱりパキパキと身体の中から骨の軋む音が聞こえる。
『一仕事終えるまでは休めないから頑張れアタシの身体』
→To Be Continued.