第7章 学生編・終夏のAudience
「ワタシ達もそろそろ着替えて会場の準備をしましょ」
「へーい」
と気の抜けた返事をしながらバーカウンターを出るボーカルの紫音はサングラスの位置を正す。
「この感じだと朱音様、間に合うか微妙ね…」
「そらアンタのせいでしょ。無理させたんだから」
「分かってるわよ、咎めるつもりは無いわ」
朱音は確かベースの人。間に合うか微妙と言う事は何か問題でもあったのだろうか。
「御免ね皆。いつもはバーカンにスタッフ居るんだけどワタシ達のライブの時は信頼置けるスタッフ少数精鋭なの。勝手に中に入って飲み物飲んでいいから」
去り際に"あ、忘れてた"とバーカウンターに戻るとカウンターの端に置いてあった箱を手に取る。
「皆もこの中から一枚選んで」
「何ですかコレは」
「ちょっとしたコーナーで使うものよ。まぁ当たるかどうかは皆の運次第だけどね」
パチン、とウインクをしたんだろうけど何せ顔の左半分が隠れてるから分からない。
※※※
「なぁ…ありゃどっちだ?」
箱の中の紙を一人一枚ずつ引いて確認をしたらそれぞれに数字が記載してあった。そしてそれを確認した後、池上先輩とボーカルが入って行ったステージ裏を怪訝な顔付きで見ながら、わんこがポツリと呟く。
「「どっちって何が?」」
「あ、もしかして性別の事?」
うーん…確かに。女性だとしては背は高めだし丸みが無さ過ぎる。かと言って男性だとしては小柄な方だし筋肉が無さ過ぎる。所謂、骨皮筋しか無い様なカリッカリ。病的なカリッカリ。そして声もどちらとも捉えられるくらい中性的。
「天祥院は池上先輩が空音って知ってたんだろ?何か知らねぇのか?」
「僕が知っていたのは池上先輩の事だけだよ。他のメンバーの事は聞いてないし…教えてもくれないだろう」
確かに。うっかり自分の事を喋ってしまいそうになってた場面は何回かあったが、その都度マネージャー殿に牽制されていた。まぁ結局、我輩達には喋る事を許されたみたいだが。かと言って他のメンバーの事を話す気は全く無さそうだった。
「元々、池上先輩は美人だし体型も華奢だからあーゆーの似合うよね」
「ふぅむ…私も今度、彼女に舞台メイクを頼んでみたいですね」
「やめとけ日々樹。お前の様な奇人とあんなエリートが話せるとは思えん」