第5章 学生編・終夏のRecord
「驚かせるつもりは無かったんじゃが…すまんのぅ」
『あ、いえ…こちらこそすみません』
落としたスプレーを拾ってくれたから受け取って買い物カゴの中に入れて同じものを棚から更に二本、買い物カゴの中に入れる。
「随分と大量に買うのぅ…しかも全部整髪系」
『ええ、まあ…』
何でこんな時に…どすっぴんだし服装だって適当なラフだし…こんなオフモード全開の時に限って誰かに遭遇するのは何でなんだろう。神様って酷くないか。
「我輩も部員を連れて買い出し中でな…こんなに暑い真昼間から動くなど気が滅入る」
あ、そう言えば。
『もう体調は大丈夫なんですか?』
「え?」
『こないだ公園のベンチで死にかけてましたよね』
※※※
何故その事を知っている、と一瞬思ったが話を聞けば、あの日ハンカチと水と飴を用意してくれたのは彼女だそうな。
『私(わたくし)も用事で急いでましたし死にかけてるって言っても死ぬ気配は無かったので放置させて頂きましたが』
「そうか…世話になったのぅ。何か礼を…」
『結構です。お気になさらず』
「………」
ピシャリと言い放つと会計をカードで済ませて薬局を出ると携帯を見る。なんと言うか………壁が凄い。分厚くて高い。言葉も刺々しいし辛辣な喋りをする。仲良くなるには骨が折れるタイプだろう。
『では私(わたくし)はまだ買い物が有りますので、これにて失礼させて頂きます』
「待った」
そう言って急いで去ろうとする彼女の手を掴んで引き止めると面倒臭そうに眉根を寄せる。
『………まだ何か?』
「礼にはならぬかも知れぬが手伝おう」
『結構です』
「手伝おう」
『けっ「手伝おう」………』
根勝ちした。
しかし…女性にしては少し大きめの手。赤ん坊みたいにもちもち…だが手の平、小指から中指にかけての指丘は…これは豆か?
-ぱっ-
『………』
「すまん、悪気は無い。随分と不思議な手をしておるんじゃと思うてな」
つん、とそっぽを向かれてしまった。元から機嫌は良さそうでは無いが少し機嫌を損ねてしまったか。多分次、何かしたら池上先輩みたいに殴られるだろう。
※※※
「流石俺様!センスの塊だぜ」
「変な物ばっかり買ってるじゃん」