第2章 イライ・クラーク
『……迷ったな、これ。』
食堂を出た私はイソップくんの部屋に行こうとしていた……はずだったのだが、そういえばイソップくんの部屋も知らないし、自分の部屋に戻る道もわからない。
『どうしよ……。食堂出る前にエミリーさんとかに聞いておけばよかったな……。』
そう呟きながらも歩き続けていると、いつの間にか庭園に着いていた。視界一面に緑が広がっている。思わず私は深呼吸をした。
『気持ちいい……』
マイナスイオンを浴びていると、トントンと肩を叩かれた。
振り返るとそこには虎ちゃん姿のイライがいた。
か、可愛いぃぃぃぃ。心の中で叫びつつ、何とか表情に出さないよう耐える。
『昨日の子だよね!よかった、元気そうで。そういえば名前聞いてなかったな。なんて名前なの?』
終始ニコニコのイライくん可愛い。
『あ、えと佐伯 千代と言います。よろしくお願いします。』
『へぇ、千代ちゃんって言うのか。可愛いね。』
……おい、自分自惚れるな。可愛いって言ったのはあくまで名前のことだ。そう名前!名前のことだからっ!
そう私は自分に言い聞かせる。
『僕はイライ・クラーク。イライでいいよ。よろしくね。』
そう言ってニコッとイライは笑ったがすぐに不思議そうな顔をした。
『あれ、でも……初めて門のところであった時、僕の名前呼ばなかったっけ?』
まずい。イライのことを知ってはいる。が、それはあくまでゲームの話だ。しかしその事をそのまま話すのはまずい気がする……。
そう思い、とりあえず何か言って誤魔化さなきゃと思った私は
『し、知り合いにあなたによく似た人がいて、その人の名前がイライだったんです。とっさのことでその人かと思って……。』
と答えた。
厳しいかっ……恐る恐るイライをみる。
『ふーん……。そうなんだ!すごい偶然だね!』
ほっ……と私は胸を撫で下ろす。
『そういえば千代ちゃんはこんなとこで何してたの?』
『あっ!』
そうだ私はイソップくんのとこに行かなきゃいけないんだった。
『あ、あのイライくん。イソップくんの部屋知らない?』
『イソップのとこに行きたいの?なら僕暇だし案内するよ。』
『あ、ありがとう!』
助かった。これでやっとイソップくんのとこに行ける。