第1章 切島くんのお部屋
「リルル!」
『切島くん!』
あの時もこんな風に声をかけてきてくれた。
「今日、時間あるか?」
『あ、ごめんなさい、今日はちょっと用事が…』
「えっ…」
切島くんの声のトーンが低くなった気がした。
「何の、用事だよ?」
『あ、えっと…そろそろ行かないとっ、ごめん、また今度ね』
今日は、お兄ちゃんが年に一度帰ってくる日。
お兄ちゃんはプロヒーローで海外を飛び回ってる。
そろそろ待ち合わせの時間だ。
私は、その気持ちを抑えられず切島くんを振り切ってしまった。
切島くんが、ものすごい表情で見ていることも知らずに。
この時、ちゃんと説明していれば、こんなことにはならなかったかも知れないのに。
『お兄ちゃん!!』
「おー元気だったか!? リルル!!」
私はガラもなく抱きついてしまった。
「おっと、お前はまだまだ子供だなぁ」
『だってー』
話したいことはたくさんある。
でも楽しい時間はいつもあっという間。
私は思わず、泣きそうな顔をしていた。
「そんな、顔するな」
『うん…』
「よしよし、早く好きな人でも探せっ」
そう言われて、思い出すのはいつも誘ってくれた切島くん。
「お、その顔はいるんだなぁー?」
『そ、そんなんじゃないもんっ///』
「よし、元気が出たみたいだな!」
じゃあな、とお兄ちゃんは帰ってしまった。
その背中を見つめたまま、私はその後の記憶を思い出せなかった。