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【黒子のバスケ】年上彼女 file1

第2章 first quarter


「あの、笠松君。」
「ななな、なんで、すかっ。」

 あ、えっと・・・なんて。予想以上に慌てている笠松君に、私までも少しテンパってしまい、頭の中が真っ白になる。

「差し入れ、持って来たんだけど。部の皆で食べてくれる?」
「あ、ああ、ありがと、ございます。」

 私が紙袋を差し出せば、笠松君は恐る恐るその袋に手を伸ばす。その動きはまるでロボットのようだ。顔は背けたままなのだけれど、耳までも真っ赤にして、チラチラと此方を見遣る大きな瞳は少しうるんでいて可愛らしい、って・・・何を考えているんだ、私は。

「たくさん持ってきたから、ちゃんと皆に渡ると思うんだけど・・・大丈夫かな?」
「だだ、だいじょうぶっで、す。」

 ・・・本当に大丈夫なんだろうか。
 私が呆れたような笑みを笠松君に向けた時だった。もう少しで、笠松君の手が届きそうだったその紙袋を、違う誰かの手が浚って行ったのだ。

「佳奈さん!俺に会いに来てくれたんですか!もしや、この紙袋は差し入れですか!?」
「うん。そう。良かったら食べて?」
「ありがとうございます!この森山!佳奈さんの気持ちを精一杯噛締めさせて頂きます!」

 そう言って由孝君は、紙袋を取りあげた私の手を掴み、体育館の中へと誘導する。靴を脱いで顔を上げた私に、由孝君が「次回からは、俺に連絡して下さい。俺を驚かせようとしてくれた気持ちはありがたいですが、このような大きな荷物を持って来るのは大変だったでしょう?」なんて、私の行動がかなり勝手に捏造されているが、彼の精一杯の気遣いはとても心に染みた。その優しげな笑顔に思わずトキメいてしまった事は内緒にしておこうと思う。


**


 武内先生が座っているベンチの隣に誘導された私に、先生が「プリン・・・」なんてしおらしく呟いていたけれど、これだけの人数分のプリンを用意するのは一苦労だし、いくら従業員割引がきくとは言え、私の財布も厳しくなる。今回のクッキーは、店のパティシエが、少々作り過ぎてしまった分も混ざっているため、出費的にはさほど痛手ではないのだ。

 とは言え、休憩中、美味しそうにクッキーを頬張ってくれる部員達と、その「ありがとうございます。」の言葉は、金銭面を気にしていた私の中に少々罪悪感を芽生えさせる程、純粋でキラキラしたものだった。

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