第2章 first quarter
「わお。やっぱカッコ良いね。ああ言うの。」
「なにそれ。惚れたの?」
「そう言うのじゃなくてさ、ふいにトキメく事ってあるでしょ?」
一方の真也も、きちんと礼儀は弁えているのか、笠松君が隣に居た時は、少しかしこまった態度で私に接していたのだけれど、笠松君の姿が見えなくなった途端、私に対する態度がぞんざいになる。
「どっちにしろ、下心見え見え。」
「別に、そういうのじゃないんだってば。ちょっと若い子で目の保養をしようとさぁ?」
「だから、それ。何、若い子って。どこのおばさんだよ。」
「どーせ、私は高校生から見たらただのばばあだよ!ほっといて!」
「・・・誰もそこまで言ってないって。」
体育館の中で、わらわらと先生の周りに部員が集まっている様子を横目に見たのか、真也は、行くわ、とだけ告げて足早に去って行った。小学生のころはもっと可愛げがあったはずなのにな、なんて。初めて真也に会った日の事をぼんやりと思い出しながら、私もゆっくりと足を進めたのであった。
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「平日の7時以降なら、残っている部員達は少ないぞ。」
・・・本当に、武内先生は唐突である。先生の言葉の前、私は何も発言した覚えはない。ただ、私の指定席になりつつある体育館のベンチに座り、ぼんやりと練習を開始した部員達を見遣っていただけだ。
「・・・何の話ですか。」
「差し入れの話だ。」
「どれだけ食い意地張ってるんですか・・・もう。そんなんだからモテないんですよ。」
私は呆れたようにため息をつきながら、先生を睨む。ほっとけ、とだけ返した先生の視線は、練習をこなしている部員達を見つめたまま。
こんな会話をしていても、ちゃんと彼等の様子を見ているのだ。その傲慢な態度に、よくよく生徒達から勘違いや毛嫌いされていたけれども、先生の本質を知ると、さほど悪い人ではないように思う。まあ、生徒が先生の人間としての本質を見ようとするなんて事は滅多にないのだけれど。私と先生の間には、なんだかんだ言っても三年と言う長い年月がある。その強制的に作られた時間のお陰で、こうしてここに居る事ができるのだろう。