第2章 first quarter
「えっと、たまたま通りかかっただけなんです。すいません、お邪魔したみたいで。」
「ああ。気にしないで下さい。休憩中ですし、問題ないですよ。」
ニコリと笑う彼の表情はとても優しげで、運動部員とは思えない程の綺麗な敬語を使ってくれる。これは、偏見なのかもしれないけれど、運動部員といえば「~っす!」なんて言う独特の敬語を使うイメージを持っていた。一概にそうは言い切れないとは分かっていても、自分の高校時代に居た身近な人間がそう言った言葉使いをする人が多かったため、私の中の男子高校生像と、彼とのギャップが生じてしまったのだろう。
「バスケに興味があるんですか?」
「え、その・・・少しだけ。あまり詳しくはないんです。ただ、試合を見るのが好きって言うか・・・」
正直な心境を伝える事が出来ない為、しどろもどろ言葉を紡ぐ私を、彼は緩やかに微笑んで相槌を打ってくれる。
私が真っすぐに立ったとしても、視界に入るのは彼の胸板。彼が此方を見遣るには、必然的に高い場所から見下ろす形になってしまうのだけれど、彼の腰の低い態度のお陰か、最初に感じた威圧感はとうに消えていた。
「良かったら見て行きますか?午後からの練習は簡単な3on3の、・・・三人一組のチームで練習試合をするんです。試合観戦が好きなら、少しは楽しめると思いますよ?」
そう言ってくれた彼の言葉に、私が目を輝かせてこくりと頷こうとした時だった。
「愛くるしいお嬢さん。ここで俺と出会えた事は神の示し合わせだと思いませんか?是非、この森山由孝と有意義なティータイムを・・・っ痛い!」
「何言ってやがる、バカヤロー!」
いつの間にかイケメン風の彼が私の目の前で微笑み、掌を差し出して居る。その後ろから、イケメン君を蹴り上げたのが、例のおチビ君である。
正直、私はおチビ君の印象の違いに驚いていた。あの試合で見たおチビ君は、なんと言うか、ただやる気だけが先走りしていて、空回りしているようなアクセル全開のイメージだった。元気っ子と言う意味では間違ってはいないのだろうけど。実際、目の前にした彼はどちらかと言うと、ブレーキ役。ただ、もう一つ間違っていない点を告げるならば『全開』である事くらいか。急ブレーキ全開。何事も全力で、みたいなタイプである事には変わりないだろう。