第5章 窮鼠猫を嚙む
「フン……翔が遊んでくれないから
仕方がないから同僚と遊んでるんだよ。」
『オレ?仕方がないですか?』と
隣で武井が眉を<への字>に歪めた。
そんな武井と智を見比べて
伊野尾は不快そうに顔をしかめた。
「なんか…やな感じですね。」
何が『やな感じ…』だよ…
それはこっちだろうと
智は怒鳴ってやろうと思ったが…
他人の生活をコソコソ嗅ぎ回って
つけ込む隙を探っている、
そんなヤツに、これ以上は無駄なことだと
智は解っている。
(あっもしかして、例の手紙も
こいつの仕業じゃないのか?)
ふと、智の脳裏にそのことが閃いた。
今も定期的に届く嫌がらせの手紙。
そういえば、1通目が届いたのは、
最初に伊野尾が智の部屋を
訪ねてきた直前だった。
執拗に翔と別れろと迫る手紙の内容と
伊野尾が智につきまとっていることは、
まるで同じじゃないか?
(そっかぁ…なんだ。
器の小さなチンケなヤツだったんだ。)
俺は、こんなガキに怯えていたなんて…
ホントバカらしい……。
翔を奪いたいなら正々堂々と
挑んでくればいいのに、
たぶん、チンケなヤツだからそこまで、
はっきりと自分の気持ちを告白する
勇気なんかなく、
コソコソと裏でせこい策略をめぐらす
しかできないのだろう。
こいつはもう、俺の敵じゃない…。
「同僚?って、俺はそんな風には見えないなぁ~
もしかしてー
浮気相手とかじゃないんですかぁ~」
あんまりにストレートな問いかけに、
智は完全に呆れてしまう。
もっと遠回しにイヤミな言い方が
できないかなぁ…
「残念だけど、俺は一つの事に
のめり込むタイプなんだぁ~
だから、いつだって恋人オンリーだよ。
まぁ…それ以外は誰といても、
特別な感情なんかにはならないよ。
あっでも、この先生は犬みたいだから
散歩しているみたいだけどね♡。」
俺、犬っすかぁ~と
武井がみえない耳と尻尾をフリフリと
揺らしていた。