第5章 窮鼠猫を嚙む
学校での武井をあんなに鬱陶しいと
思ってしまうのは、
周囲の生徒達の視線があったからなのだ。
生徒によけいな詮索をされたくない…。
だって、武井自身に対して、
智は何の感情も抱いてないのに…
もしもだ、翔が卒業してしまったから、
次の恋人の候補は武井なんて
そんな変なデマが流れたら大野智一生の不覚に
なってしまう。
武井には、ほんのわずかでも
心は動いていないのだ…。
ようは、まぁ…どうでもいい男に対しては
智は感情は全く動くことはない。
それを思い知っただけでも、
武井には少しは感謝すべきなのかかも
しれないが…。
と、一人で納得していた時、
目の前に何者かが立ち塞がった。
「へぇ~…偶然ですね。」
とぉーってもわざとらしい声をかけてきたのは、
なんと伊野尾慧だった。
「デートですか?」
その瞬間、伊野尾の口元がわずかだが
奇妙な笑いを浮かべたのを、
智は見逃さなかった。
(また、偶然かよ~?
ぜっっったいにウソだろ…。性格悪…こいつ。)
一度ならまだ偶然の言い訳は
通用するはずがない。
伊野尾は、まるで浮気現場のように
見えいるのか?
武井といっしょの場面で、翔を挟んで恋敵である
伊野尾とこんなところで遭遇するなんて
この広い街の中でそんな偶然は
そうそうおこるもんじゃない。
おこるとしたら、それはもはや偶然ではなく
必然である。
(ご苦労なこった。
わざわざ俺を監視してたんだぁ~)
そうして、ついに男と出かけた現場を
押さえて姿を現したと…
まぁ…そんなところだろう。
「男同士でテートって…
これを見てどこからその発想が浮かぶんだよ…。
こいつはだだの同僚教師だって。
それ以上でも、それ以下でもないって…。」
「へぇ~翔が必死になって練習に
頑張っている時に、あんたは同僚と
遊んでるんだ!!。
ホント信じられない…
俺にもその図々しいさが欲しいぐらいですよ!!!」