第5章 窮鼠猫を嚙む
(どーしてこう、学生が喜びそうな
コースしか浮かばないんだろう……
こいつは~)
若者で溢れている大通り。
雑然と軒を連ねるショップ。
甘い綿菓子の匂いには見向きもせず
修学旅行生の制服の集団を避けながら…
智は一刻も早く静かな場所に行きたくて
ひたすらズンズンと歩き続けていた。
背後から追ってくる武井が、
何やら妙な歓声を上げているようだが、
そんなこと知ったことじゃない。
(この歳になってこんな若者の街に来て
何が楽しいんだよ……
静かな海の見える街の方が
よっぽど楽しいのになぁ…)
賑やかな通りを通り過ぎて
ケヤキ並木が見事な静かな通りに入って
智は、ようやくホッと息をついた。
ブランドショップや洒落たカフェが連なり
ゆったりとした気分で歩けるこの通りは
今まで武井と行った中では
一番落ち着ける場所だったのだが……
「さっきのところの方がにぎやかで
よかったでしたよね~。」
などと、こぼしているのだ。
やっぱり智とは、根本的に合うはずがない。
(翔と似ている部分がもしもあるとしたら……
う~身長が一番近いかなぁ…)
何度か誘われるままに出かけたあげく
呆れるほどに思い知った。
これじゃ酒の肴にもならない。
まぁ…時間潰しだからいいけど。
だから、武井に何を言われても
その声は右の耳から左の耳へと
素道りするだけだった。
どんなにしつこく言い寄られても
不快な気分さえ湧いてもこない。
だって迷惑なヤツと感じるのは、
相手の存在を認めた証だから…。
智にとっては、この男のおしゃべりなど
街の雑音といっしょに聞こえてしまうのかも
しれない。
智は翔に関係しないモノはすべてが
興味の対象外になっていしまう。