第4章 邪魔者
翔がせっかく生徒と先生という立場を
主張したのだから、それを言い切ることにした。
だから、伊野尾…。
お前が翔の意志を無視して
やったことを黙っていてやるから、
さっさと俺達の前から消え失せてくれと
暗に匂わせてみた。
「そうですね。
信頼している先生に相談するのが
一番いいんでしょうね。」
と、伊野尾は、どこか疲れたような顔で俯く。
「じゃあ…僕帰るから…」
「おい…!大丈夫か、伊野尾?
疲れてるみたいだけど…」
「大丈夫だよ…。
ちょっと、炎天下に立ってたから…
なんか、立ち眩みしちゃたみたい…」
「……って、おい、本当か?
一人で平気?」
心配そうに訊き直す翔に
智は完全に呆れてしまった。
(なぁーんて、あざといヤツ。
さっきまでニッコニコでしゃべってたヤツが
俺の顔を見たとたんに立ち眩みだって?
信じられん……。)
智は手を上げて、通りかかった
タクシーを止めた。
「伊野尾君大丈夫か?
乗ってけよ。途中で気分が悪くなるようなら、
病院にでもいってもらえばいいだから……」
運転手に万札を渡しながら頼みますと言って、
遠慮する伊野尾をタクシーに放り込む。
「あの…、でも…
こんなことしてもらっちゃ……」
「具合が悪い時に遠慮なんか
するもんじゃないよ。
これでも、教師だから、
自分の教え子じゃなくても、
心配するのは当然なんだよ。」
と、ウソ八百を並べ立て、
さっさと邪魔者を追い返してしまった。
だか、人がいいというか……
おバカな翔は、マジで心配そうな顔して
走り去っていくタクシーを見送っている。
「大丈夫かな……あいつ。
小学校の頃から小児喘息を患ってて、
今は完治したって言っていたけど、
相変わらず病弱みたいだし……
俺と同じ歳なのに、まだ高校生ぐらいしか
見えないだろう?」