第3章 新たな対手
「でも、練習に参加してもらうなんて
口実でしかないんです。
向こうは、本気で翔を欲しがっているらしくて。
それなのに、あいつ、大学を卒業するまでは
プロになることは考えられないって
断ったんです。」
「だろうね…。」
「えっ?」
「だって、高校を卒業する時点で
すでに誘いはあったみたいだし…。」
「おかしいですよ、そんなの…。
Jリーガーになれるんですよ。
サッカーをやってるヤツなら、
誰だって憧れる夢ですよ!
それを、大学生活を経験したいなんて
理由で断るなんてーー‥」
と、伊野尾は両手を握り締め力説するが、
智にはピンとこない。
「そのさ、Jリーグってチームの数も
けっこうあるよね。
それに、たとえ入ったって、
すぐにレギラーになれるとは限らないだろう?」
「それでも、すごいんですよっ!!
Jリーグなんですよ!」
「俺の兄貴、高校の時
野球で甲子園行って優勝投手だったよ」
「はいぃ~?」
「それってすごいことだろうって訊いたら
たいしたことじゃないよって言ってたよ。
たかがボール投げだって……
その言い方を借りるなら、
サッカーだってたかが玉蹴りだよな…。」
「………………。」
伊野尾は、まん丸に目を見開いて
茫然と智を見つめている。
「俺さー、価値観が違うから……
Jリーガーになるってのは翔の夢として
大事なことだとは思ってるけど…。
俺自身は、サッカーなんて、
全然興味ないんだよね。」
心底どうでもいいように、
智は言い捨てる。
「で…、それと俺と何の関係があるの?
さっき、別れろとか何とか言ってたけど…」
「それは………、翔が、あなたと………、
その………」
「何?」
「だから、翔と恋人だって……」
「へぇ~」
と智は、口の端を軽く上げ、
軽蔑の笑みを刻んだ。
「何言ってるの?俺、男だよ。」
「えっ!」