第1章 新たな始まり
それも、幼児期に叔父の相葉に
『ホントのキスを教えて……』っと
ねだったほど、自覚は早かった。
あげく、超のつくメンクイで
ノンケの男が好きときてる
からやっかいだ。
翔と出逢う前
四人ほど肉体関係を
伴った恋人がいた。
好きになったらとことん一途。
もちろん、両天秤など
かけたこともない。
浮気など論外という智の恋は、
いつも相手の男が
『出世』や『結婚』を
持ち出すことで
破局を迎えてしまう。
自分は結婚できない。
子供も産めない…………。
法律でも、常識でも、
認められることのない関係。
それが解っている以上は、
女ができたと言われれば、
こっそりと涙を
流し諦めるしかなかった。
智は、逃げていく男に
すがりつく事は、絶対に
したくなかった。
男としての最後のプライドが
許さなかった。
だから、いつも笑って
『おめでとう』と
言って別れてやった。
その後は、
食事も喉を通らず……
暗い部屋の中で
泣きわめいたことも
何度もあった。
四人目恋人………
井ノ原快彦とは、
大学のコンパで知り合って
二年ほど続いた。
遊び好きで、定職にも就かず
智が勤めていたデザイン事務所で
アルバイトをやったりしながら
お気楽な生活を送っていた。
そんな、井ノ原がある日突然
真剣な顔で『結婚』の二文字を盾に
別れを切り出してきた時
智は、もう、どうでいいような
気になった。
何度も何度も繰り返してきた
報われない恋。
尽くしても、尽くしても
理想の相手なんか現れない。
いっそ過去のすべてを切り捨てて
真っ当な人生とやらを歩もうかと思い
それまで勤めていた会社も辞めた。
ゲイの仲間との交流も絶ち
五十嵐学園の美術教師になって
新たな生活を
踏み出そうとしていた。
そんな矢先のことだった。
酔い潰れて、路上に倒れこんで
しまった
それが、智の人生の大逆転劇となる
櫻井翔との最初の出逢いだった。
そのあと、いろいろあったが…………。
(詳しくはtogether, forever‥君の元へ届けを読んでね。)
翔の卒業式の日に、
二人は涙の別れを迎えるはずだったが…
翔は居並ぶ来賓や
父兄の視線が注がれる中
なんと智を花嫁のように抱き上げると、
騒然とする式場から逃亡したのだった。